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【2026年最新】日本AI推進法の全貌|EU AI Actと比較

【2026年最新】日本AI推進法の全貌|EU AI Actと比較

Q. 日本AI推進法とは何か? なぜ今注目されているのか?

2025年5月28日、日本初のAI専門法律「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(通称:AI推進法)が参議院本会議で可決・成立しました。同年6月4日に公布され、9月に全面施行されています。

この法律が注目を集める理由は明確です。EUが世界初の包括的AI規制「EU AI Act」を施行し、米国でもAI規制論が加速するなか、日本が選んだのは「規制」ではなく「推進」という独自路線でした。罰則なし、リスク分類なし、企業の自主性を重視する——この大胆なアプローチは、国際社会から「イノベーション・ファースト」と評されています。

では、AI推進法は具体的に何を定め、企業にどのような影響を及ぼすのでしょうか。そしてEU AI Actとは何がどう違うのか。Q&A形式で徹底解説します。

関連記事:日本AI規制ガイドラインv1.2の要点では、AI推進法の下位ガイドラインについて詳しく解説しています。

Q. AI推進法の基本構造は? 何が書かれているのか?

AI推進法は全23条からなる「基本法」です。特定の行為を禁止したり罰則を科したりする「規制法」ではなく、国のAI政策の方向性と体制を定める枠組み法として設計されています。

法律の3本柱

1. 基本理念の明示(第3条〜第5条)

AI推進法は、AIの研究開発と活用において以下の理念を掲げています。

  • イノベーションの促進と社会課題の解決の両立
  • 安全性・信頼性の確保と人権の尊重
  • 透明性の確保と説明責任
  • 国際協調と国際競争力の強化
  • 多様な主体(産学官民)の連携

2. AI戦略本部の設置(第19条〜第23条)

内閣に「人工知能戦略本部」を新設し、内閣総理大臣が本部長を務めます。省庁横断でAI政策を統括する司令塔として機能し、以下の役割を担います。

  • AI基本計画の策定・推進
  • 各省庁のAI施策の総合調整
  • 産学官の連携促進
  • 国際協力の推進

3. AI基本計画の策定義務(第18条)

政府に対し、AIの研究開発・活用の推進に関する「基本計画」の策定を義務付けています。基本計画には、基本方針、研究開発の推進施策、人材育成、データ基盤整備、国際協力などの方針が盛り込まれます。2025年6月には早くもAI基本計画が閣議決定されました。

関係者の責務

AI推進法は、国・地方公共団体・研究開発機関・活用事業者のそれぞれに責務を定めています。

  • 研究開発機関(第6条):基本理念に則った研究開発の推進、国・自治体施策への協力
  • 活用事業者(第7条):AIを活用した事業の効率化・高度化・新産業創出への努力、国・自治体施策への協力
  • 国(第8条〜第17条):研究開発支援、人材育成、データ基盤整備、国際協力、リスク事案の調査研究など

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Q. 罰則はあるのか? 企業は何をすべきなのか?

結論から言えば、AI推進法には刑事罰・行政罰ともに一切ありません。これは同法の最大の特徴であり、EU AI Actとの決定的な違いです。

罰則なしの代わりに何があるか

罰則がないからといって、企業がAI推進法を無視してよいわけではありません。第16条に基づき、国は以下の権限を持っています。

  • 調査権限:国内外のAI動向の情報収集、権利侵害事案の分析
  • 行政指導:調査結果に基づく指導・助言・情報提供
  • 是正要請:不適切なAI活用に対する改善要請

つまり、直接的な罰金はなくても「行政指導」と「レピュテーションリスク」(いわゆる「ネーム・アンド・シェイム」)によって実質的な規律が働く仕組みです。行政指導に従わなければ企業名が公表される可能性があり、社会的信用の毀損という形で大きなダメージを受けることになります。

企業が今すぐ取り組むべき5つのアクション

  1. AIガバナンス体制の構築:AI利用方針の策定、責任者の任命、リスク管理プロセスの整備
  2. AI事業者ガイドラインへの対応:経産省・総務省が公表している「AI事業者ガイドライン」に沿った自主的な取り組み
  3. AI利用規約・契約の見直し:AI開発・提供契約における責任分担、データの取り扱い、知的財産権の帰属を明確化
  4. リスク事案対応体制の構築:AIによる権利侵害が発生した場合の報告・対応フロー整備
  5. 社内教育・リテラシー向上:従業員のAIリテラシー教育、適切なAI活用スキルの育成

AIガバナンス体制の構築について詳しくは、AIガバナンス入門:企業が今すぐ始めるべき社内方針設計をご覧ください。

Q. EU AI Actと何がどう違うのか? 徹底比較

日本のAI推進法とEU AI Actは、AIに対する法的アプローチの両極端に位置します。以下の比較表で違いを整理しましょう。

比較項目日本 AI推進法EU AI Act
法律の性質基本法(推進法)包括的規制法
アプローチソフトロー(自主規制中心)ハードロー(法的拘束力あり)
リスク分類なし4段階(禁止・高リスク・限定リスク・最小リスク)
禁止されるAI規定なしソーシャルスコアリング、感情認識(法執行)、サブリミナル操作等
罰則なし(行政指導のみ)最大3,500万ユーロまたは全世界売上高の7%
適用対象主に国・政府機関開発者・提供者・利用者すべて
執行機関AI戦略本部(政策立案中心)欧州AI委員会+各国監督機関
主な目的イノベーション促進・国際競争力強化基本的権利の保護・リスク低減
施行時期2025年9月(全面施行済み)2024年8月発効、2026年8月に高リスクAI規制が全面適用

哲学の違い:推進 vs 規制

最も根本的な違いは法律の「哲学」にあります。Future of Privacy Forum(FPF)の分析によれば、日本のアプローチは「イノベーション・ファースト」と位置づけられています。

EU AI Actが「AIは危険を伴う可能性がある。だからリスクに応じて規制する」という発想に立つのに対し、日本のAI推進法は「AIは国家競争力の源泉である。だから推進する環境を整備する」という発想です。

この違いは条文の構造にも表れています。EU AI Actが全113条にわたって開発者・提供者・利用者への詳細な義務を規定するのに対し、AI推進法は全23条のうち大部分が国の責務と体制整備に充てられ、民間への直接的な義務規定は最小限です。

リスク分類の有無

EU AI Actの中核は4段階のリスク分類です。「禁止されるAI」(ソーシャルスコアリング、サブリミナル操作など)、「高リスクAI」(採用・信用審査・医療診断など)、「限定リスクAI」(チャットボットなど透明性義務のみ)、「最小リスクAI」(規制対象外)と明確に区分します。

一方、日本のAI推進法にはこのようなリスク分類は存在しません。「AI事業者ガイドライン」で自主的なリスク管理を促していますが、法的拘束力はありません。

罰則の重さ

EU AI Actの罰則は世界最高水準です。禁止AI違反で最大3,500万ユーロ(約56億円)または全世界年間売上高の7%、高リスクAI義務違反で最大1,500万ユーロまたは3%、虚偽報告で最大750万ユーロまたは1%。中小企業には減額規定がありますが、それでも巨額の制裁金です。

日本のAI推進法には罰則がゼロ。この差は歴然としています。

EU AI Actへの対応について詳しくは、EU AI Act対応チェックリスト2026年版をご参照ください。

Q. グローバル企業はどちらに合わせるべきか?

日本市場だけで事業を展開する企業であれば、現時点ではAI推進法のソフトローアプローチに沿った自主的なガバナンス体制で十分です。しかし、EU市場にもサービスを提供する企業は注意が必要です。

域外適用の問題

EU AI Actは域外適用があります。EU域内のユーザーにAIシステムを提供する場合、開発者がEU域外(日本を含む)にいても同法が適用されます。つまり、日本企業であってもEU市場向けにAIサービスを提供する場合は、EU AI Actの全要件を満たさなければなりません。

「最高水準準拠」戦略

So & Sato法律事務所の分析が指摘するように、グローバル企業にとっての現実的な戦略は「最高水準準拠(highest-standard compliance)」です。EU AI Actの要件を満たすガバナンス体制を構築しておけば、日本のAI推進法(より緩やかな要件)にも自動的に準拠できます。

今後の規制強化の可能性

AI推進法は「推進法」ですが、今後の規制強化の布石でもあります。第16条が国に調査権限を付与していることは前述の通りですが、法律の附則には施行後の状況を踏まえた見直し規定が含まれています。つまり、現在はソフトローでも、ディープフェイクポルノ、著作権侵害、差別的AI利用といった具体的な被害が拡大すれば、個別の規制法が制定される可能性は十分にあります。

Bird & Bird法律事務所も、日本のアプローチは「段階的規制」の第一歩に過ぎないと分析しています。今のうちにガバナンス体制を整備しておくことが、将来の規制強化にも備えることになります。

政府のAIエージェントに関する最新の指針については、政府AI指針:エージェント規制の最新動向も合わせてご確認ください。

Q. 行政のAI活用はどう変わるのか?

AI推進法のもう一つの重要な側面は、行政機関自体のAI活用推進です。第15条は、国の行政機関がAI関連技術を活用して「業務の効率化及び高度化」を図ることを規定しています。

デジタル庁のガバメントAI構想

AI推進法の成立を受け、デジタル庁は「ガバメントAI」構想を推進しています。行政手続きの効率化、政策立案へのAI活用、市民サービスの向上を三本柱として、政府全体でのAI導入を加速させる方針です。

自治体への波及効果

地方公共団体にも「施策の推進」の努力義務が課されており(第9条)、すでに複数の自治体がAI推進法を根拠にAI導入予算を確保する動きが見られます。住民対応のAIチャットボット、議事録の自動文字起こし、都市計画シミュレーションなど、具体的な活用事例が急速に広がっています。

EU AI Actとの対照的なスタンス

興味深いことに、EU AI Actは公共部門でのAI利用に対してむしろ「制限的」です。特にリアルタイム生体認証(顔認識など)の公共空間での利用は厳しく制限されています。日本のAI推進法が行政のAI活用を「推進」するのとは対照的なスタンスです。

Q. 企業がAI推進法時代に勝ち残るための戦略は?

AI推進法がソフトローであることは、企業にとってチャンスでもあります。規制が厳しくない今のうちに、戦略的にAIガバナンスを構築し、競争優位を確立できるからです。

短期(2026年中)にやるべきこと

  • AI利用ポリシーの策定・公開:自社のAI利用方針を明文化し、ステークホルダーに開示
  • AI事業者ガイドラインとの整合性チェック:経産省・総務省ガイドラインへの準拠状況を確認
  • AI利用実態の棚卸し:社内で使われているAIツール・サービスの一覧化とリスク評価

中期(2026〜2027年)に備えるべきこと

  • EU AI Act対応の検討:2026年8月に高リスクAI規制が全面適用。EU市場向け事業があれば必須
  • AIリスク管理フレームワークの導入:NIST AI RMFやISO/IEC 42001などの国際標準を参考に体制構築
  • AI人材の育成・確保:AI推進法が重視する人材育成は企業にとっても最重要課題

長期(2027年以降)を見据えた視点

  • 規制強化への準備:AI推進法の見直しや個別規制法の制定に備え、柔軟に対応できるガバナンス体制を構築
  • 国際標準への準拠:広島AIプロセスをはじめとする国際的なAIガバナンス枠組みへの対応
  • AI倫理委員会の設置:経営レベルでAIの倫理的利用を監督する体制の構築

参考・出典

まとめ:日本のAI推進法は「攻め」の法律である

日本のAI推進法は、EU AI Actのような「守り」の規制法ではなく、AIを国家戦略として推進する「攻め」の基本法です。罰則なし、リスク分類なし、企業の自主性重視——このソフトローアプローチは、日本のAI産業に成長の余地を与える一方で、企業には自律的なガバナンス構築という重い責任を課しています。

特に注目すべきは、AI推進法が「終着点」ではなく「出発点」であるという点です。今後、ディープフェイクや著作権侵害などの具体的な問題に対して個別の規制法が制定される可能性は高く、今のうちにガバナンス体制を整備しておくことが、将来のリスク軽減にも直結します。

AIの活用は待ったなしの経営課題です。AI推進法が整備された今こそ、自社のAIガバナンスを見直し、攻めと守りのバランスの取れたAI戦略を構築する絶好のタイミングではないでしょうか。

AI推進法やAIガバナンスに関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。生成AIの研修・導入支援の豊富な実績をもつ専門チームが、貴社に最適なアプローチをご提案します。

この記事はUravation編集部がお届けしました。

佐藤傑
この記事を書いた人 佐藤傑

株式会社Uravation代表取締役。早稲田大学法学部在学中に生成AIの可能性に魅了され、X(旧Twitter)で活用法を発信(@SuguruKun_ai、フォロワー10万人超)。100社以上の企業向けAI研修・導入支援を展開。著書累計3万部突破。SoftBank IT連載7回執筆(NewsPicks最大1,125ピックス)。

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