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富士通Kozuchi|COBOL設計書を97%高速化したAIサービスの全貌

富士通Kozuchi|COBOL設計書を97%高速化したAIサービスの全貌

基幹システムを動かしているCOBOLのコードは数百万行。だが設計書は20年前に更新が止まったまま。保守を担っていたベテランは来年定年。——こんな状況が、いま日本中の企業で静かに進行している。

経済産業省が「2025年の崖」と名付けた警告は、2026年になった今もまったく解消されていない。むしろ崖はすでに足元まで来ている。年間最大12兆円の経済損失リスク、IT人材不足は2030年に最大79万人に達する見通しだ。

そんな中、富士通が本日(2026年3月30日)発表したのが、生成AIでソースコードから設計書を自動生成するSaaS「Fujitsu Application Transform powered by Fujitsu Kozuchi」。設計書作成の作業時間を約97%削減するという。すでにSMBC日興証券が2025年度から共同検証を進め、「この技術の大きな可能性を認識した」とコメントしている。

この記事では、富士通Kozuchiが具体的に何を解決するのか、SMBC日興証券の検証事例、そしてIBM・Google・デロイト トーマツとの比較を通じて、レガシーモダナイゼーションの最前線を解説する。

富士通が「設計書の自動生成」に振り切った理由

レガシーシステムのモダナイゼーションには大きく3つのアプローチがある。

アプローチ内容リスク代表ツール
リホストコードそのままクラウドに移行AWS Mainframe Modernization
リライトCOBOL→Javaなどに自動変換中〜高IBM watsonx Code Assistant、デロイト innoWake
リビルド設計から作り直す(人力中心)

どのアプローチを選ぶにしても、最初に必要なのは「いまのシステムが何をしているのか」を正確に理解することだ。設計書がないシステムをいきなりJavaに変換しても、変換後のコードが正しいかどうか検証できない。

富士通がKozuchiで最初にリリースした機能が「設計書の自動生成」だったのは、この本質的な課題——ブラックボックス化した既存システムの可視化——を最優先したからだ。

Kozuchiの技術的な仕組み

富士通Kozuchiの核心技術は2つある。

1. コード解析技術:COBOLプログラムの制御フロー、データ依存関係、外部インターフェースを構造的に解析し、プログラム間の関連性をマッピングする。一般的な生成AIがソースコードを「テキスト」として読むのに対し、Kozuchiはコードの構造を理解する。

2. Fujitsu Knowledge Graph-Enhanced RAG for Software Engineering:解析した構造情報をナレッジグラフとして構築し、RAG(Retrieval Augmented Generation)で生成AIに供給する。これにより、数百万行規模のコードベースでも、プログラム間の関連性を見落とさず、ハルシネーション(事実に基づかない出力)を抑制する。

富士通によれば、一般的な生成AI単独の解析と比較して:

  • 網羅性が95%向上——見落としがほぼなくなる
  • 可読性が60%向上——人間が読んで理解しやすい設計書になる
  • 作業時間を約97%削減——従来1ヶ月かかっていた工程が約1日に

つまり、COBOLの専門家がいなくても、システムの全体像を把握できる設計書が手に入る。これが「2025年の崖」の核心的な解決策になりうる理由だ。

SMBC日興証券の検証事例——金融レガシーの最前線

富士通のプレスリリースで注目すべきは、SMBC日興証券の堀内利弘・常務執行役員のコメントだ。

「富士通が長年培ってきたシステム開発の深い知見と生成AIを組み合わせたこの取り組みは、我々のレガシーシステムのモダナイゼーションを現実的に推進するものだと考えている。2025年度より、COBOLをはじめとするレガシー言語に対する設計書リバースの共同検証を進めてきたが、この技術の大きな可能性を認識した。」

金融機関のレガシーシステムは、おそらく日本で最も複雑で最も移行が困難な領域だ。理由は明確で、以下の3つが同時に存在する。

金融レガシーが特に厄介な理由

規模の問題:大手証券会社のメインフレームは、数百万行のCOBOLコードで構成されている。SMBC日興証券の親会社であるSMBCグループは、グループ全体で膨大なレガシー資産を保有している。

規制の問題:金融庁の規制下にあるため、システム変更時には厳密なテストと監査証跡が求められる。「動いているからいい」では許されない。

人材の問題:COBOLを理解できるエンジニアの平均年齢は上昇し続けている。日興システムソリューションズ(SMBC日興証券の子会社)がメインフレームのオープン化を進めているものの、設計書の不在がボトルネックとなっていた。

SMBC日興証券が富士通と共同検証を行ったのは、まさにこの「設計書がなければモダナイゼーションが始まらない」という現実に直面していたからだろう。共同検証の具体的な数値は公開されていないが、SMBC日興証券が本番導入に向けた検討を進めていることは、金融レガシーにおけるAI活用の重要なマイルストーンだ。

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Before → After:設計書生成の変化を数字で見る

項目従来(人手)Kozuchi導入後変化
設計書生成にかかる時間約1ヶ月約1日97%削減
必要な専門知識COBOL熟練者が必須専門知識不要で生成可能人材制約の解消
設計書の網羅性担当者の経験に依存一般GenAI比で95%向上属人化の排除
設計書の可読性書き手のスキルに依存従来手法比で60%向上品質の均一化
ハルシネーションリスクN/AナレッジグラフRAGで抑制精度担保

出典:富士通プレスリリース(2026年3月30日)

注意すべきは、97%という数字が「設計書生成」というプロセスに限定されている点だ。モダナイゼーション全体の工数が97%削減されるわけではない。設計書生成はモダナイゼーションの第一歩であり、その後にはリライトやテスト、移行といった工程が控えている。

それでも、「設計書がないから手が出せない」というデッドロックを解消する効果は極めて大きい。多くの企業がモダナイゼーションの検討段階で止まっている最大の理由が、まさにこの「現状把握ができない」問題だからだ。

IBM・Google・デロイトとの比較——各社のアプローチの違い

レガシーモダナイゼーションにAIを投入しているのは富士通だけではない。主要プレイヤーの戦略を比較すると、各社の「どこから手をつけるか」の違いが見えてくる。

企業主要ツールアプローチ強み日本市場
富士通Kozuchi Application Transform設計書の自動生成(可視化)→ 段階的にリビルド・リライト追加ナレッジグラフRAGによる高精度な文書生成◎ 国内SaaS提供
IBMwatsonx Code AssistantCOBOL→Javaの直接変換メインフレーム(z/OS)の深い知見○ グローバル展開
GoogleMainframe Assessment Tool / Mainframe Rewriteアセスメント→リライト→Dual Runで検証Google Cloudとの統合、Dual Runによるリスク低減○ クラウド基盤込み
デロイト トーマツinnoWake™COBOL→Java 1行単位の自動変換100件以上の移行実績、100%精度を主張◎ 国内体験施設あり

それぞれの「正解」が違う理由

IBMのアプローチは、メインフレームの既存顧客に向けて「いきなりJavaに変換」する道を提示している。IBMは自社がメインフレームを製造している立場なので、顧客のシステムの内部構造を最もよく知っている。その優位性を活かした戦略だ。

Googleのアプローチは、「アセスメント→リライト→検証」という三段階を一気通貫で提供する点が特徴的だ。特にDual Run(旧システムと新システムを同時稼働させて結果を比較する機能)は、金融機関のような「一発で正確に動かなければならない」領域で強い。

デロイト トーマツのアプローチは、独自ツール「innoWake」で1行単位のCOBOL→Java変換を行い、「構造を変えないから不具合が起きにくい」という安全性を売りにしている。2025年4月に東京・千代田区に体験施設「Application Modernization Studio Tokyo」を開設し、ハンズオンで技術を試せる点も実務寄りだ。

富士通のアプローチは、これらと異なり「まず設計書を作る」という原点に立ち返っている。一見地味だが、設計書なしにリライトやリホストを進めた結果、「変換はできたが何をしているのか誰も分からないJavaコード」が生まれるリスクを考えると、本質的な順序を押さえた戦略といえる。

落とし穴と学び——97%削減に飛びつく前に確認すべきこと

ここまで読んで「97%削減はすごい、うちもすぐ導入しよう」と思った方は、以下の点を必ず確認してほしい。

落とし穴1:97%は「設計書生成」限定の数字

繰り返しになるが、モダナイゼーション全体の97%ではない。設計書を手に入れた後に、コード変換、テスト、データ移行、運用体制の構築といった工程が待っている。設計書生成は全体の中で見れば序盤のフェーズだ。

❌「AIで97%削減できるなら、モダナイゼーション予算を大幅に減らせる」
⭕「設計書生成の工数は劇的に減る。その分のリソースを、変換・テスト・移行の品質向上に再配分する」

落とし穴2:AIが生成した設計書の検証は人間の仕事

Kozuchiの網羅性が95%向上したとしても、残り5%は見落としの可能性がある。金融や医療など、ミスが許されない領域では、AIが生成した設計書を業務知識を持つ人間がレビューするプロセスが不可欠だ。

❌「AIが設計書を作ってくれるから、レビューは不要」
⭕「AIが下書きを作り、人間が業務知識で検証する。この分業が最も効率的」

落とし穴3:設計書ができても「決断」ができなければ意味がない

正直に言うと、設計書がなかったから動けなかったのではなく、モダナイゼーションの意思決定ができなかったから設計書すら作らなかったという企業も多い。ツールを導入する前に、経営層がモダナイゼーションにコミットしているかどうかが最も重要な前提条件だ。

落とし穴4:ベンダーロックインのリスク

富士通Kozuchiは、富士通が構築したシステムに対して最も精度が高い可能性がある。他ベンダーが構築したシステムの場合、解析精度がどの程度担保されるかは、事前に検証が必要だ。同様に、IBM watsonxはIBMメインフレームに、GoogleはGoogle Cloud移行に最適化されている。自社のシステム構成に合ったツール選定が不可欠だ。

この先どうなるか——2026年度以降のロードマップ

富士通は今回の設計書自動生成を「第一弾」と位置づけている。2026年度以降に予定されている機能拡張は以下の通り。

  • 既存ソースコードのリビルド:設計書をもとにコードを再構築
  • ソースコードの自動リライト:COBOL→モダン言語への変換
  • 運用・保守サポート:モダナイゼーション後のシステム運用をAIが支援

Gartnerは、2026年までに大企業の80%以上がAI支援ツールをレガシーモダナイゼーションに採用すると予測している。富士通、IBM、Google、デロイトの動きを見ると、この予測は現実味を帯びている。

さらに注目すべきは、Gartnerが本日(2026年3月30日)発表した新たな予測だ。2028年までにLLMオブザーバビリティ(大規模言語モデルの振る舞いを監視・分析する仕組み)への投資がGenAIデプロイメントの50%に達する(現在15%)という。AIが生成した設計書やコードの「なぜそうなったか」を追跡できる仕組みが、今後のモダナイゼーションツールの必須要件になっていく。

日本企業が今週やるべき3つのこと

レガシーモダナイゼーションは「いつかやる」では間に合わない。IT人材不足は毎年悪化し、COBOLを読める人間は減り続けている。

1. 現状把握から始める:自社のレガシーシステムの規模(行数、言語、依存関係)を棚卸しする。設計書の有無と更新状況も確認する。これが全ての出発点だ。

2. ツールのトライアルを申し込む:富士通Kozuchiは本日からSaaSで提供開始。デロイト トーマツは東京の体験施設でハンズオンが可能。IBM、Googleもそれぞれ無料アセスメントツールを提供している。まずは自社コードの一部を投入してみることで、AIの実力を体感できる。

3. 経営層とモダナイゼーションの優先度を合意する:ツールの導入検討より先に必要なのは、「レガシーシステムの刷新に経営として取り組む」という意思決定だ。現状、IT予算の90%以上がシステム維持に消えている企業も珍しくない。この配分を変えるのは、ツールではなく経営判断だ。

まとめ

富士通の「Fujitsu Application Transform powered by Fujitsu Kozuchi」は、レガシーモダナイゼーションの最も根本的な課題——設計書のないブラックボックスシステムの可視化——に正面から取り組んだサービスだ。97%の作業時間削減という数字は目を引くが、その本質は「まず現状を理解する」という当たり前の、しかし多くの企業ができていなかったステップをAIが可能にした点にある。

SMBC日興証券との共同検証は、金融レガシーという最難関領域でこの技術が現実的に機能することを示す重要なシグナルだ。IBM、Google、デロイト トーマツもそれぞれ異なるアプローチでモダナイゼーション市場に参入しており、2026年はまさにレガシーモダナイゼーションのAI元年と呼べる状況になっている。

「2025年の崖」を過ぎた今、問題は「やるかやらないか」ではなく「どこから始めるか」に移っている。設計書の自動生成は、その最も合理的な第一歩だ。

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参考・出典


著者:佐藤傑(さとう・すぐる)
株式会社Uravation代表取締役。早稲田大学法学部在学中に生成AIの可能性に魅了され、X(旧Twitter)で活用法を発信(@SuguruKun_ai、フォロワー10万人超)。100社以上の企業向けAI研修・導入支援を展開。著書累計3万部突破。SoftBank IT連載7回執筆(NewsPicks最大1,125ピックス)。

佐藤傑
この記事を書いた人 佐藤傑

株式会社Uravation代表取締役。早稲田大学法学部在学中に生成AIの可能性に魅了され、X(旧Twitter)で活用法を発信(@SuguruKun_ai、フォロワー10万人超)。100社以上の企業向けAI研修・導入支援を展開。著書累計3万部突破。SoftBank IT連載7回執筆(NewsPicks最大1,125ピックス)。

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