「展示会、出展はするんですけど、毎回ブースの前を素通りされて終わるんですよね」——先月、地方の金属加工メーカーの営業部長から、半分あきらめたような顔でそう相談されました。年に2回、決して安くない出展料を払って大型展示会に出ている。なのに名刺は集まるけれど商談につながらない。準備は前日まで会社案内の差し替えに追われ、終わったあとのフォローは「気づいたら3週間経っていた」。これ、特別ダメな会社の話ではなくて、中小企業の展示会出展ではむしろ「あるある」です。
正直に言うと、展示会で成果が出ない理由の多くは、当日のトークやブースのデザインより手前にあります。「誰に何を伝えるブースなのか」が言語化されていない。配布物が会社案内一択。名刺をもらったあとの追いかけ方が決まっていない。つまり、出展というイベントそのものの設計とフォロー設計が甘いんです。そしてここは、まさに生成AIが下書き・整理を肩代わりしやすい領域でもあります。
この記事では、中小企業が展示会・イベント出展を進めるときに、ChatGPTやClaudeといった生成AIを「考える相手」「文章の下書き役」として使う実務手順を、コピペで使えるプロンプト付きで紹介します。出展テーマの整理、ブースの説明文・キャッチコピー、配布資料の下書き、来場者からよく出る質問への返答案、社内・現場スタッフ向けの共有資料まで、出展前後で詰まりやすいところを順番に潰していきます。
先に大事な前提を一つ。出展するかどうか、いくらかけるか、どの展示会を選ぶかといった最終判断は、必ず経営者・責任者が行ってください。AIは論点の洗い出しと文章作成を手伝う「速い壁打ち相手」であって、意思決定を代わりにするものではありません。情報は2026年6月時点のものです。
展示会出展でAIが効くのは「準備の下書き」と「フォローの仕組み化」
展示会の出展準備というと、ブースのレイアウトやノベルティ選びに目が行きがちですが、成果を分けるのは地味な文章まわりの作業です。出展の狙いを一言で説明できるか。ブースの前を歩く人が3秒で「自分に関係ある」と思えるキャッチがあるか。もらった名刺に、翌週ちゃんと意味のある一通を送れるか。これらは全部「書く仕事」で、ここがAIの得意分野です。
私が研修先の中小メーカーで実際に見てきた限り、展示会出展のボトルネックはだいたい次の5か所に集約されます。
- 出展テーマの曖昧さ:「とりあえず会社全体を見せる」になり、訴求がぼやける
- ブース説明文・キャッチの不在:パネルの文章を作る時間がなく、会社案内の流用で終わる
- 配布資料が会社案内一択:来場者の関心別に出し分けられていない
- 想定問答の準備不足:当日スタッフによって答えがバラバラになる
- 出展後フォローの属人化:誰がいつ何を送るか決まっておらず、放置される
逆に言えば、この5か所の「たたき台」をAIに作らせれば、人間は確認と判断に集中できます。ここからは、出展の流れに沿って使えるプロンプトを並べていきます。コピペして、自社の状況を【】の中に差し替えて使ってください。

ステップ1:出展テーマと訴求ポイントを整理する
最初にやるべきは「この展示会で、誰に、何を、なぜ伝えるのか」の言語化です。ここが決まらないと、ブースもチラシも全部ブレます。AIに自社情報を渡して、論点を洗い出すたたき台を作ってもらいましょう。
次の手順で進めます。
- 出展する展示会名・想定来場者・自社の強みをメモにまとめる
- 下のプロンプトに貼り付けて、AIに訴求案を複数出させる
- 出てきた案の中から「これは違う」を消し、社内で残す案を選ぶ
- 選んだ訴求軸を1〜2行に固定し、以降の制作物の判断基準にする
あなたは中小企業の展示会出展を支援するマーケティング担当です。
以下の情報をもとに、今回の出展で打ち出すべき訴求テーマの案を5つ提案してください。
それぞれ「ターゲット来場者」「伝えたい価値」「想定される反応」をセットで書いてください。
# 自社情報
- 事業内容:【例:金属加工(試作・小ロット対応)】
- 強み:【例:図面なしのラフスケッチから試作できる】
- 出展する展示会:【例:製造業向け部品調達展】
- 想定来場者:【例:開発・購買担当者】
- 今回特に取りたい商談:【例:新規の試作案件】
# 出力条件
- 専門用語を避け、来場者目線の言葉で
- 「会社全体を見せる」のような曖昧な案は除く
- 最後に、私が判断するための比較表(訴求/向く来場者/リスク)をつけるポイントは、AIの出力を「正解」として受け取らないことです。あくまで考えるための材料。出てきた5案を見て「うちはこれじゃない」と引き算する作業こそが、人間がやるべき価値判断です。研修先でこのプロンプトを回した会社では、それまで漠然と「技術力をアピール」と言っていたのが、「図面がなくても試作できる、を前面に出す」と一言に絞れて、ブースの作り方が一気に決まりました。
ステップ2:ブースの説明文・配布資料を下書きする
訴求軸が決まったら、それを来場者に届く言葉に翻訳します。ブースのパネル文、キャッチコピー、配布チラシのリード文。ここでAIに下書きを作らせると、ゼロから書く心理的ハードルがなくなります。
あなたは展示会のブース制作を担当するコピーライターです。
以下の訴求テーマをもとに、ブースで使う文章を作成してください。
# 訴求テーマ
【ステップ1で確定した訴求軸を貼る】
# 作ってほしいもの
1. メインキャッチ(来場者が3秒で「自分に関係ある」と思える1行)を3案
2. サブコピー(メインを補足する20〜40字)を各案に1つずつ
3. パネル本文(120字程度・強みを具体的に)
4. 配布チラシの冒頭リード文(来場者の悩みに触れる書き出し)
# 条件
- 誇張表現(業界No.1・最高など根拠のない言葉)は使わない
- 数字を入れる場合は【私が後で実数に差し替える】前提で[ ]にする
- 専門用語にはひと言の補足をつけるこのプロンプトのキモは「根拠のない最上級表現を使わない」と縛っている点です。展示会の制作物は社外に出る公式な発信なので、盛った表現は信頼を損ねます。AIに任せるとつい「業界最高水準」みたいな言葉を入れがちなので、最初から禁止しておくのが安全です。数字も、AIが勝手に作った架空の値を載せると事故になるので、必ず自社の実数に置き換えてください。
配布資料を関心別に複数パターン作りたいときは、同じプロンプトの末尾に「開発担当向け/購買担当向けの2パターンで」と足すだけで出し分けの下書きが作れます。来場者の立場によって刺さるポイントは違うので、ここを分けられると当日の渡し分けがぐっと楽になります。
ステップ3:当日の想定問答(Q&A)を用意してスタッフ間でそろえる
展示会で意外と差がつくのが、ブースに立つスタッフの受け答えです。社長は流暢に説明できても、当日応援に入った若手が同じ質問にしどろもどろ、というのはよくあります。来場者からよく出る質問への返答案をAIに作らせ、当日の台本にしてしまいましょう。
あなたは展示会ブースの接客マニュアルを作る担当者です。
以下の出展内容について、来場者からよく聞かれそうな質問と、その返答例を作ってください。
# 出展内容
- サービス/製品:【例:小ロット試作サービス】
- 強み:【ステップ1の訴求軸】
- よくある懸念:【例:価格が高そう、納期が読めない】
# 出力
- 想定質問を10個(価格・納期・実績・他社との違い・進め方など幅広く)
- 各質問に、誰が答えても同じトーンになる返答例(2〜3文)
- 「その場で答えず持ち帰るべき質問」には【持ち帰り】と印をつける
# 条件
- 断定できない数字や条件は「概算ですが」と前置きする形にする
- 価格や納期は【自社で確認のうえ差し替え】前提で書く注意してほしいのは、価格や納期のような「約束になる数字」は、AIの出力をそのまま使わないことです。AIはそれっぽい数字を作ってしまうので、実際の条件は必ず自社で確認してから差し替える。返答例の中に【持ち帰り】の印を入れさせておくと、答えに迷ったスタッフが安易に約束してしまう事故を防げます。来場者対応の文書づくりは、AIで営業の新規開拓・リード獲得を効率化する考え方とも地続きなので、合わせて読むと理解が深まります。
ステップ4:出展後のフォローメール・お礼文を下書きする
正直、展示会の成果はここで8割決まります。名刺を1,000枚集めても、追いかけなければただの紙です。でも現実には「全員に同じ定型メールを一斉送信」か「忙しくて何も送らない」の二択になりがち。AIを使えば、来場時の温度感に合わせたフォロー文を素早く作り分けられます。
あなたは展示会後のフォロー営業を支援する担当者です。
以下の条件で、来場者へのフォローメールの下書きを作ってください。
# 前提
- 展示会名:【例:製造業向け部品調達展】
- ブースで話した内容:【例:試作の進め方を10分ほど説明】
- 相手の関心度:【A:具体的な案件あり / B:情報収集段階 / C:名刺交換のみ】
# 出力
- A・B・Cそれぞれに合わせたメール文面を1通ずつ
- 件名も3案ずつ
- Aには次のアクション(オンライン面談など)への自然な誘導を入れる
- Cは押し売り感を出さず、軽い情報提供にとどめる
# 条件
- 定型文っぽさを避け、ブースでの会話を踏まえた一文を入れる
- 1通あたり300字以内・読みやすい改行で相手の関心度をA・B・Cに分けて文面を作り分けるのがコツです。具体的な案件がある人に「資料を見てください」だけ送るのはもったいないし、名刺交換しただけの人に商談を迫ると引かれます。この温度別の出し分けを人力でやると時間がかかりますが、AIなら数分で3パターンの下書きが揃います。あとは自分の言葉で一文足して送る。これだけでフォローの着手スピードが段違いになります。フォローを社内の仕組みに落とし込む発想は、AIでイベント企画・集客を効率化する記事でも詳しく触れています。
ステップ5:社内・現場スタッフへの共有資料を作る
出展は一人では回りません。当日ブースに立つ人、留守番組、フォロー担当。みんなが「今回の出展は何を狙っているのか」を共有できていないと、せっかくの準備がバラバラになります。ここまでに作った訴求軸・想定問答・フォロー方針を、AIに1枚の共有資料へまとめさせましょう。
あなたは展示会出展プロジェクトの進行役です。
以下の素材を、当日スタッフ全員が事前に読める「出展ブリーフ(1枚)」にまとめてください。
# 素材
- 出展の狙い:【ステップ1の訴求軸】
- ブースで伝える要点:【ステップ2のキャッチ・パネル本文】
- 想定問答の要点:【ステップ3から重要な3問】
- 当日の役割分担:【例:声かけ担当/説明担当/名刺管理担当】
- フォローの方針:【ステップ4の関心度別の動き方】
# 出力
- A4・1枚で読み切れる分量
- 「これだけは守る」を冒頭に3つ
- 当日朝の朝礼で読み上げられる構成
- 専門用語は使わず、応援スタッフでも分かる言葉でこのブリーフがあると、当日応援に入る人や別部署のスタッフでも、5分読めば全体像をつかめます。属人化していた「社長の頭の中」を、チームで共有できる文章に変換するわけです。展示会のような単発イベントは、終わると知見が個人の記憶に閉じてしまいがち。ブリーフを毎回残しておけば、次回の出展準備が前回の資料を更新するだけで済むようになり、回を重ねるほど楽になります。AIをチームの業務に組み込む全体像は、AIエージェント導入ガイドでも整理しています。
【要注意】展示会出展でAIを使うときの落とし穴
便利な反面、使い方を間違えると事故になります。研修現場で実際に見た失敗パターンを挙げておきます。
- ❌ AIが作った数字や実績をそのまま配布物に載せる
⭕ 価格・納期・導入実績などの数字は、必ず自社の実数に差し替える。AIは「それっぽい数字」を作るので、根拠のないまま社外に出すと信頼を一気に失います。 - ❌ 来場者の名刺データやアンケート結果を、無断でそのままAIに貼り付ける
⭕ 氏名・連絡先などの個人情報は、取り扱いルールを確認したうえで扱う。会社の方針や利用するツールの規約次第では、外部AIへの入力が問題になります。最低限、個人を特定できる情報は伏せて要約する運用に。 - ❌ 取引先や原価・取引条件など、機微な情報をAIに渡して相談する
⭕ 競合や価格に関わる情報は安易に入力しない。出てきた回答も、独占禁止法や下請法などに触れる可能性がある領域では断定せず、専門家や公式情報で確認する。 - ❌ AIの出力をノーチェックで配布・送信する
⭕ 必ず人間が最終確認する。誇張表現や事実と違う記載が残っていないか、送る前に読み返す。出展という公式の場では、文章の責任は出展企業にあります。
特に2つ目と3つ目は、展示会という「人と情報が大量に動く場」だからこそ起きやすい事故です。名刺・原価・取引条件といった情報の扱いは、各社のルールと公式ガイドラインに沿って慎重に進めてください。
研修現場でよく聞かれる質問
「AIに自社の強みを聞いても、ありきたりな答えしか返ってこないんですが」——これはプロンプトに具体情報が足りないことがほとんどです。「金属加工業です」だけだと一般論しか出ません。「図面なしのラフスケッチから試作できる」「最短3日で初回試作を出せる」のように、自社ならではの事実を入れるほど、出力は具体的になります。AIは渡した情報以上のことは知りません。
「無料のChatGPTでも展示会準備に使えますか」——下書きや壁打ちなら十分使えます。ただし、入力した内容がどう扱われるかはツールやプランの設定で変わるので、個人情報や機微情報を入れる前に、利用するサービスの規約と自社のルールを必ず確認してください。判断に迷う情報は入れない、が安全側の原則です。
「結局、AIに任せていい範囲はどこまでですか」——文章の下書き、論点の洗い出し、複数案の比較たたき台までがAIの守備範囲です。出展可否の判断、価格や納期の約束、配布物の最終チェックは人間が握る。「速い下書き役」と割り切るのが、現場でうまく回っているチームの共通点です。
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まとめ:今日から始める3つのアクション
展示会・イベント出展は、準備とフォローの「書く仕事」をAIに任せるだけで、成果がはっきり変わります。最後に、今日から動ける3ステップを置いておきます。
- 次の出展について、ステップ1のプロンプトで「誰に何を伝えるか」を1〜2行に固定する
- ステップ3の想定問答プロンプトで、当日スタッフ用のQ&A台本を1枚作る
- 出展後フォローのテンプレ(ステップ4)を、関心度A/B/Cの3パターンで先に用意しておく
大事なのは、AIに丸投げするのではなく「速い下書き役」として横に置くこと。出展するか、いくらかけるか、何を約束するかの最終判断は、いつも経営者・責任者の側にあります。AIはその判断を速く、ラクにするための道具です。まずは次の展示会のブース文1行から、試してみてください。
佐藤傑(さとう・すぐる)
株式会社Uravation代表取締役。X(@SuguruKun_ai)フォロワー約10万人。100社以上の企業向けAI研修・導入支援。著書『AIエージェント仕事術』(SBクリエイティブ)。SoftBank IT連載7回執筆(NewsPicks最大1,125ピックス)。
参考・出典
- 独立行政法人 中小企業基盤整備機構「経営にお悩みの方へ」(販路開拓・展示会出展などの経営支援)(2026年6月時点)
- J-Net21(中小企業ビジネス支援サイト)「起業支援」(2026年6月時点)
- 個人情報保護委員会「個人情報保護法等」(名刺・来場者情報の取り扱い根拠)(2026年6月時点)
- 情報処理推進機構(IPA)「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」(2026年6月時点)
この記事の内容を社内展開する方へ: AI研修導入40項目チェックリスト(無料・PDF 14ページ) をダウンロードできます。
AI導入、要件整理から一緒にやります
100社以上・研修4,200名以上の実績。ツール選定から設計・社内展開まで、実務目線で伴走します。
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