結論:介護施設のAI活用は、見守りセンサーや介護ロボットのような高額な専用機器からでなく、ChatGPTやClaudeなど汎用の生成AIで「記録の整理・ケアプラン原案・シフト調整・家族への連絡文」を内製化するところから始めるのが、いちばん早くて失敗しにくいです。
この記事の要点
- 介護関係職種の有効求人倍率は全国平均3.97倍(2025年3月時点、全職業平均1.16倍)と採用競争が激しく、厚生労働省は2026年度に約25万人、2040年度に約57万人の介護職員増員が必要と推計している(出典は記事末)。
- 厚労省は2025年4月公表の中間とりまとめで、居宅サービス計画書(ケアプラン)やサービス担当者会議の議事録の「原案作成」に生成AIを活用する方向性を明記した。ただし最終判断はケアマネジャーが行う前提。
- 本記事では、記録・ケアプラン・シフト・家族連絡・採用・研修まで、コピペで使える介護実務プロンプトを10本以上、失敗パターンと回避策、使える補助金・加算まで全部公開します。
対象読者:介護施設・訪問介護事業所の経営者・管理者・生活相談員・ケアマネジャーの方
読了後にできること:今日、手元のスマホかPCでChatGPT/Claudeを開き、申し送りメモを整った記録文に整形できるようになります。
「今日も記録が終わらないまま夜勤に入る……」
これは、特定の1施設だけの話ではありません。介護職員は利用者への直接ケアに時間の6割弱を割いている一方で、記録・実績確認・請求業務にも相応の時間を取られ、「もっと利用者と向き合う時間が欲しいのに、書類に追われている」という声は、介護の現場で驚くほど繰り返し聞かれます。人手不足で1人あたりの業務量が増えるほど、この「記録に追われる時間」がじわじわと現場の余力を奪っていきます。
数字で見ても、この構造はかなり深刻です。厚生労働省の推計では、介護職員は2022年度の約215万人から2026年度に約240万人(+約25万人)、2040年度には約272万人(+約57万人)が必要とされ、毎年およそ6.3万人ペースで増員しないと追いつきません。にもかかわらず、介護関係職種の有効求人倍率は全国平均3.97倍(2025年3月時点)と、全職業平均1.16倍の3倍以上。東京都では7.65倍に達します。「採って増やす」だけでは間に合わないのが、いまの介護業界の現実です。
だからこそ厚労省も、2025年4月に公表した「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関する中間とりまとめ」で、ケアプラン(居宅サービス計画書)やサービス担当者会議の議事録の「原案作成」に生成AIを活用する方向性を明記しました。人を増やせないなら、書類仕事の一部をAIに肩代わりさせて、限られた人手を「人にしかできないケア」に振り向ける――これが国レベルでも打ち出されている方向性です。この記事では、私が100社以上のAI研修・導入支援で見てきた知見をもとに、介護施設・訪問介護事業所がChatGPTやClaudeといった汎用AIだけで、今日から内製で始められる7ステップを、コピペ可能なプロンプトつきで全部公開します。「うちはITに詳しい人がいない」という事業所ほど効く内容なので、5分で試せるテクニックから順にどうぞ。なお、業種を問わずAIをどう導入していくかの全体像はAI導入戦略の立て方で体系的にまとめています。
まず試したい「5分即効」テクニック3選
いきなり「施設全体でAI導入」と気負う必要はありません。まずはスマホでもPCでも、無料のChatGPTかClaudeを開いて、この3つを試してみてください。介護現場でいちばん効果を実感しやすいものを選びました。
即効テクニック1:口頭の申し送りメモを「記録文」に整形する
事例区分:想定シナリオ
以下は、100社以上の研修・導入支援の経験をもとに構成した、介護施設で典型的に起こりうるシナリオです。特定の実在事業所の事例ではありません。
夜勤明けの申し送りで話した内容を、そのまま記録として書き直すのは地味に時間がかかります。話し言葉のメモを、そのまま記録の体裁に整えてもらいましょう。
以下は、介護記録として口頭で申し送りした内容です(話し言葉のまま)。これを記録文の形式に整えてください。
【申し送りメモ】
[ 例:〇〇さん、今日の昼食は全量摂取、午後の入浴は本人の希望で見送り、少し傾眠傾向あり、バイタルは平熱、特に変わりなし ]
出力形式:時刻/状況・様子/実施したケア/特記事項(体調変化や気になる点)
話し言葉を丁寧な記録文に整えるだけで、メモにない事実や数値は足さないでください。
判断に迷う表現は[要確認]と記載してください。効果:ポイントは「メモにない事実や数値は足さない」という一文です。AIは文章を整える過程で、つい「良好でした」のような曖昧な評価語を付け加えてしまうことがあります。介護記録は事実の記載が原則なので、この歯止めを最初から入れておくことが欠かせません。整形自体は数十秒で終わるので、記録に使っていた時間を、利用者と話す時間に振り替えられます。
即効テクニック2:ご家族への体調報告メッセージを下書きする
「今日の様子をご家族に伝えたいけれど、文章を考える時間がない」というのも介護現場のあるあるです。事実の箇条書きを渡すだけで、丁寧な報告文にしてもらいます。
以下の事実を、ご家族向けの体調報告メッセージに整えてください。
丁寧だが堅苦しすぎないトーンで、200字程度。
【本日の事実】
[ 例:食欲は普段どおり、夜は少し咳込みあり、明日はかかりつけ医の定期受診予定 ]
【報告する相手】[ 例:週1回連絡を取っているご長男 ]
事実にない体調の評価(大丈夫です、心配ありません等)は書き加えず、
医学的な診断・見解が必要な内容は「詳しくは主治医にご確認ください」としてください。効果:ここで大事なのは「事実にない体調の評価は書き加えない」の指示です。AIは読み手を安心させようとして「大丈夫です」のような言い切りを付け足すことがありますが、体調の評価は本来、医療職・介護職が責任を持って判断すべき領域です。事実は正確に、評価が必要な部分は専門家に委ねる――この線引きをプロンプトに明記しておくと安全に使えます。
即効テクニック3:専門用語を「ご家族向けにやさしく」言い換える
「褥瘡(じょくそう)」「拘縮(こうしゅく)」「誤嚥(ごえん)」――介護・医療の専門用語は、ご家族にとっては馴染みがなく、不安を感じさせてしまうことがあります。AIは「翻訳」がとても得意なので、これをやらせます。
以下の介護・医療の専門的な説明を、専門知識のないご家族にも分かるよう、やさしい言葉で言い換えてください。
不安をあおらず、安心してもらえるトーンで、300字以内。
【元の説明】
[ 例:仙骨部に発赤あり、褥瘡の初期段階が疑われるため体位変換の頻度を増やして経過観察している ]
専門用語を残す場合は、必ずカッコ書きで補足説明をつけてください。
事実関係は変えず、医学的な判断が必要な箇所は「看護職・医師が確認の上」と明記してください。効果:専門知識のある人ほど、つい専門用語のまま説明してしまいがちです。AIに「ご家族向けにやさしく」翻訳させるだけで、「何か隠されているのでは」という不安の芽を一つ摘めます。研修の場でも、この「翻訳」の使い方を見せると、現場のスタッフから一番強い反応が返ってきます。
この3つに共通するのは、どれも「ゼロから何かを生み出す」のではなく「すでにある情報を、形を変えて出し直す」作業だということ。AIはこの「変換・整形」が圧倒的に得意で、しかも間違いのリスクが低い領域です。だからこそ、介護現場でも最初の一歩はここから始めるのが鉄則です。
介護現場のAI活用は「3つの型」で考える
個別のプロンプトに入る前に、全体像を整理しておきます。「介護×AI」というと見守りセンサーや介護ロボットのようなハードウェアを思い浮かべる方が多いですが、本記事が扱うのはそれとは別の領域です。まずこの3つの型を区別してください。
| 型 | 内容 | 介護現場での具体例 | 本記事の対象 |
|---|---|---|---|
| ①見守り・介護ロボット型 | センサーやロボットなどのハードウェア | 離床センサー、見守りカメラ、移乗支援ロボット | 対象外(別途専用機器の検討が必要) |
| ②文章・情報整理型 | ChatGPT/Claudeなど汎用の生成AIで、書く・整えるを助ける | 記録の整形、ケアプラン原案、家族連絡文、求人票、議事録 | 本記事のメイン |
| ③判断支援型 | 比較・洗い出しをAIに手伝わせるが、最終判断は人 | ケアプランの論点整理、リスクの洗い出し、シフト調整案の提示 | 一部扱う(必ず有資格者の最終確認前提) |
介護業界のAI関連記事の多くは①のロボット・センサー系か、事例紹介にとどまりがちです。しかし記録・書類・連絡文といった「文章を書く仕事」の負担は、②の汎用生成AIで今日からでも軽くできます。しかも初期費用がほぼゼロで始められるのが、②の大きな利点です。まずは③の「判断」から入らないこと。②の「文章を作る型」で小さな成功体験を積むのが、現場に定着させる鉄則です。
業務別・介護実務プロンプト集
ここからは、部門・業務ごとに「コピペして使えるプロンプト」を紹介します。すべて [ ] の部分を自事業所の情報に置き換えて使ってください。
記録・書類部門
プロンプト:日々の記録を「月次モニタリング記録」の下書きに整理する
毎日の記録を、月次でまとめてモニタリング記録に仕上げる作業は、まとまった時間が必要です。日々の記録をまとめて渡し、要点を整理してもらいます。
以下は、ある利用者の今月の日々の記録の抜粋です。これをモニタリング記録の下書きとして整理してください。
【今月の記録抜粋】
[ 日々の記録を箇条書きまたはそのまま貼り付け ]
出力項目:
1. 心身の状態の変化(あれば時系列で)
2. 食事・排泄・入浴などADLの変化
3. ご本人・ご家族からの発言・要望
4. 来月のケアプランで確認・見直しが必要と思われる点
記録に書かれていない事実は推測で足さないでください。
断定できない変化は「〜の傾向が見られる」という表現にとどめてください。活用例:ゼロから1か月分を読み返して要約する作業を、AIに一次整理させることで大幅に時短できます。ただし出力はあくまで下書きで、最終的な評価・記載責任は担当職員にあります。「記録に書かれていない事実は推測で足さない」の一文は、ハルシネーション(もっともらしい創作)対策として必須です。
プロンプト:LIFE提出前のデータ整理チェックリストを作る
科学的介護情報システム(LIFE)へのデータ提出は、様式が細かく、提出前の確認に手間がかかります。AIに入力を代行させるのではなく、「提出前の確認観点の整理」を手伝わせます。
科学的介護情報システム(LIFE)への提出データを準備しています。
以下の項目について、提出前に確認すべきチェックポイントのリストを作成してください。
【対象の様式】[ 例:ADL評価、栄養関連スクリーニング ]
【今回の記入内容の概要】[ 記入内容の要点を貼り付け ]
出力:
1. 記入もれ・矛盾が起きやすい項目
2. 前回提出分との整合性で確認すべき点
3. 最終確認は必ず有資格者・提出責任者が行うことを前提にした注意点
このチェックリストは提出データそのものを作成・修正するものではなく、
確認観点を洗い出すためのものであることを明記してください。活用例:AIにLIFEの入力代行をさせるのではなく、「提出前に見落としがちな観点」を洗い出させるのがポイントです。データそのものの正確性への責任は、あくまで事業所・記入者側にあります。
ケアマネジメント部門
プロンプト:居宅サービス計画書(ケアプラン)の原案骨子を作る
事例区分:想定シナリオ
以下は研修・導入支援の経験から構成した典型シナリオで、実在事業所の事例ではありません。
厚労省の中間とりまとめでも触れられている通り、ケアプランの「原案」作成は生成AIが得意とする領域です。ただし、完成品ではなく「骨子・論点」を出させるのがコツです。
あなたはケアマネジャーの原案作成を補助するアシスタントです。
以下のアセスメント情報をもとに、居宅サービス計画書(第1表・第2表)の骨子案を作成してください。
【利用者の状況】[ 例:80代女性、要介護2、独居、下肢筋力低下で歩行に不安、認知機能は概ね保たれている ]
【本人・家族の意向】[ 例:できるだけ自宅で暮らし続けたい、通所での運動機会を増やしたい ]
出力:
1. 総合的な援助の方針(案)
2. 生活全般の解決すべき課題(ニーズ)の候補(優先度つき)
3. 各ニーズに対応する長期目標・短期目標の案
4. サービス内容の候補(種別のみ、具体的な事業所名は入れない)
これはあくまで検討のための「たたき台」であり、最終的な計画の決定と説明責任はケアマネジャーにあることを明記してください。
アセスメント情報にない事実は補わないでください。活用例:AIに任せるのは「論点の整理と選択肢の提示」までで、最終的にどのニーズを優先し、どのサービスを組み合わせるかは、ケアマネジャーが利用者・家族と対話しながら決める仕事です。厚労省の中間とりまとめも、生成AIを「ケアマネジャーの原案作成を助けるパートナー」と位置づけており、代替ではないとしています。この役割分担を守ることが、安全な活用の前提です。
プロンプト:サービス担当者会議の議事録を口頭メモから作る
以下は、サービス担当者会議の口頭メモ(または文字起こし)です。これを議事録の形式にまとめてください。
【口頭メモ/文字起こし】
[ ここに貼り付け ]
議事録の項目:開催日時/出席者(職種)/検討した利用者の状況/各サービス提供者からの報告/決定事項/次回までの持ち帰り事項(担当者と期限)
「誰が・いつまでに・何をするか」が明確になるようにしてください。
発言にない決定事項を作らないでください。曖昧な発言で担当・期限が不明なものは[要確認]としてください。活用例:複数の専門職が集まる会議は、発言も専門用語も多く、議事録作成に時間がかかりがちです。文字起こし(スマホの録音アプリやWeb会議の自動文字起こしでも可)をAIに渡せば、決定事項と担当・期限が整理された議事録が数分でできます。「発言にない決定事項を作らない」の指示は必須です。
採用・研修部門
プロンプト:介護職の求人票たたき台を作る
有効求人倍率が4倍近い介護業界では、求人票の「伝わりやすさ」が採用の成否を左右します。とはいえ、忙しい中で毎回ゼロから書くのは大変です。
以下の情報から、介護職の求人票の本文(仕事内容・アピールポイント)のたたき台を作成してください。
【募集職種】[ 例:介護職員(無資格・未経験可) ]
【勤務条件】[ 例:シフト制、月9日休み、夜勤月4回程度 ]
【職場の特徴】[ 例:少人数ユニット型、研修制度あり、平均勤続年数が長い ]
トーン:誇張せず、正直で読み手に安心感のある文章。400字程度。
事実にない待遇や制度は書かないでください。断定的すぎる表現(絶対、必ず等)は避けてください。活用例:求人票は「盛りすぎる」と入職後のミスマッチと早期離職につながります。「事実にない待遇は書かない」の一文を入れることで、誠実さを保ったまま、伝わりやすい文章に整えられます。
プロンプト:新人向けOJTチェックリストのたたき台を作る
あなたは介護施設の教育担当者です。以下の新人職員向けに、OJT(現場教育)で使うチェックリストのたたき台を作成してください。
【新人の状況】[ 例:介護未経験、入職1週目 ]
【教える範囲】[ 例:食事介助、記録の書き方、緊急時の連絡フロー ]
出力形式:
週ごとの到達目標/確認項目(チェックボックス形式)/教える側が注意すべきポイント
安全・衛生・個人情報保護に関わる項目は必ず含めてください。
このチェックリストは施設ごとのマニュアル・法令・基準の確認を前提にしたたたき台であることを明記してください。活用例:新人教育の質は、教える職員の経験や忙しさによってばらつきが出がちです。チェックリストの骨子をAIに作らせ、自施設のマニュアルと突き合わせて仕上げれば、教育の抜け漏れを減らせます。
家族対応・広報部門
プロンプト:クレーム・不安の声への一次回答文を作る
以下は、ご家族から寄せられたお声(クレーム・不安)です。これに対する丁寧な一次回答メールの下書きを作ってください。
【お声の内容】
[ 例:面会に行ったら居室が少し散らかっていて心配になった ]
【事業所としての対応方針】[ 例:居室の整理状況を確認し、明日中にご報告する ]
トーン:誠実で、相手の不安に寄り添う。言い訳がましくならない。300字程度。
対応方針に書いていない約束はしないでください。
原因や責任の所在に関する断定は避け、「確認の上、改めてご説明します」としてください。活用例:ご家族からのお声は、感情的にならず冷静な文面で受け止めることが大切です。AIに「誠実で、相手の不安に寄り添う」トーンで一度たたき台を作らせると、冷静なスタートラインに立てます。もちろん、送る前に必ず責任者が目を通すことが前提です。
プロンプト:施設だより(広報誌)の記事下書きを作る
以下のメモから、施設だより(ご家族向け広報誌)に載せる記事の下書きを作成してください。
【今月の出来事メモ】
[ 例:夏祭りレクリエーション実施、〇名参加、盆踊りと屋台ごっこを楽しんだ ]
トーン:温かく、読んでいてほっとする文章。300〜400字。
参加人数や活動内容など、メモにない事実は書き加えないでください。
特定の利用者の様子を書く場合は、氏名は伏せて「〇〇さん」のような表記に留めてください。活用例:広報誌の記事作成は後回しになりがちな業務の代表格です。写真とメモさえあれば、AIが読みやすい下書きを作ってくれるので、そこから自分たちの言葉で仕上げれば十分です。
安全管理部門
プロンプト:ヒヤリハット報告を分類・集計する
以下は、過去3か月に現場から上がってきたヒヤリハット報告です。これらを分類・集計してください。
【ヒヤリハット報告】
[ 報告内容を箇条書きで貼り付け(例:移乗時にバランスを崩しかけた、配薬時に確認が漏れかけた、など) ]
出力:
1. 種類別の件数(転倒・誤薬・誤嚥・その他)
2. 発生しやすい時間帯・状況の傾向
3. 優先的に対策すべき上位3つ(理由つき)
報告に書かれていない事実は推測で足さないでください。活用例:紙やExcelでたまっているヒヤリハットを、傾向分析して安全会議の資料にする、といった使い方ができます。「うちの施設は移乗時のヒヤリハットが多い」といった傾向がデータで見えれば、研修のテーマも具体的になります。「報告に書かれていない事実は推測で足さない」の指示は必須です。
介護施設がAIを内製化する7ステップ
個別のプロンプトを試したら、次は「事業所として続けられる形」にしていきます。高額な専用システムを検討する前に、まずこの7ステップで汎用AIを使い倒すのが、投資対効果がいちばん高いやり方です。
| STEP | やること | 目安期間 |
|---|---|---|
| 1 | 無料版のChatGPTまたはClaudeを管理者・相談員が1人で触ってみる | 1日 |
| 2 | 「いちばん時間がかかっている書類仕事」を1つ選ぶ | 1日 |
| 3 | その業務のプロンプトを作り、3回試して自事業所用に直す | 1週間 |
| 4 | うまくいったプロンプトを職員間で共有(テンプレ化) | 2週間 |
| 5 | 有料版(月3,000円前後)に切り替えて数名で運用 | 1か月 |
| 6 | 個人情報の取り扱いルールを文書化する | 1〜2か月 |
| 7 | 効果を測り、記録ソフト・専用ツールの見直しも検討する | 3か月〜 |
STEP2の「いちばん時間がかかっている書類仕事を1つ選ぶ」が、この7ステップで一番重要です。「記録も議事録も求人票も全部」と一度に手を広げると、必ず途中で挫折します。多くの介護現場では、日々の記録の整形か、家族連絡文のどちらかがここに当たることが多い印象です。
STEP4の「テンプレ化して共有」も見落とされがちです。うまくいったプロンプトを、施設の共有フォルダやチャットツールに「記録整形用プロンプト」として貼っておくだけでいい。これをやらないと、せっかくのノウハウが特定の職員の頭の中に留まってしまい、その人が休んだ日に機能しなくなります。プロンプトは事業所の資産だと考えてください。
STEP5の有料版への切り替え判断は「無料版の使用回数制限にひっかかるようになったとき」です。法人向けの有料プランでは、入力内容がAIの学習に使われない設定を選べる場合が多く、要配慮個人情報を扱う介護現場では早めの移行をおすすめします。
【要注意】よくある失敗パターンと回避策
失敗1:AIが作ったケアプラン原案をそのまま確定させてしまう
❌ AIが出したケアプランの骨子や記録の下書きを、内容を確認せずそのまま利用者・家族に提示したり記録として確定したりする
⭕ AIの出力は必ず「たたき台」と位置づけ、ケアマネジャー・介護福祉士など有資格者が確認・修正してから確定する
なぜ重要か:生成AIは、もっともらしいが誤った内容(ハルシネーション)を出すことがあります。厚労省の中間とりまとめでも、生成AIはケアマネジャーの「原案作成を助けるパートナー」であり、判断そのものを代替する存在ではないとされています。「文章を整える」のはAI、「内容と最終判断に責任を持つ」のは人――この線引きを崩すと事故につながります。
失敗2:要配慮個人情報を無防備に入力してしまう
❌ 利用者の氏名・住所・病歴・障害の状況などを、無料版AIにそのままコピペする
⭕ 固有名詞は[利用者A]のように伏せる。要配慮個人情報を扱うなら、入力データが学習に使われない設定の法人向け有料プランを使う
なぜ重要か:介護記録には、病歴や障害の状況など個人情報保護法上の「要配慮個人情報」が多く含まれます。無料版の一部サービスでは、入力内容がAIの学習に利用される場合があります。個人情報保護委員会も、生成AIサービスの利用にあたって個人情報を含む入力に注意するよう呼びかけています。
失敗3:LIFEへの入力やケアマネジメントの「代行」だと誤解する
❌ 「AIがLIFEのデータを自動で入力してくれる」「AIがケアプランを完成させてくれる」と誤解して運用する
⭕ AIはあくまで文章の整形・下書き作成・論点整理までを担当し、実際の入力・最終判断・記載責任は担当職員が持つ
なぜ重要か:本記事で紹介したプロンプトは、いずれも「下書き」「たたき台」「チェックリスト」を作らせるものです。AIに実務そのものを丸投げできる、という期待値で導入すると、必ずギャップに直面します。最初から「補助ツール」という位置づけで導入することが、現場の混乱を防ぎます。
失敗4:現場に一斉導入して抵抗感を生む
❌ 「AI導入するぞ」と号令をかけて、全職員・全業務に一斉展開する
⭕ 1人・1業務から始めて、成功事例を作ってから横展開する
なぜ重要か:ITに不慣れな職員ほど、いきなり押し付けられると拒否反応が出ます。「あの職員が記録を早く終わらせている」という具体例があれば、自然と広がります。人手不足の現場ほど、変化への心理的な余裕も少ないことを念頭に置いてください。
この記事の内容、自社の業務でも回したい?
AI顧問(月次伴走)が、貴社の業務に合わせて導入から定着まで並走します。研修4,000名以上・支援100社以上の実績。まずは30分の壁打ちから。
セキュリティと運用ルール — 要配慮個人情報の扱い
「AIを使うと利用者情報が漏れるのでは」――介護施設の経営者・管理者から必ず出る不安です。ここは曖昧にせず、最低限のルールを文書化しておきましょう。
- 入力してはいけない情報を決める:利用者・家族の氏名、住所、病歴、障害の状況などは、伏せ字にするか、学習に使われない法人プランでのみ扱う
- 最終確認は必ず有資格者が行う:ケアプラン原案・記録・LIFE提出データは、ケアマネジャーや責任者のチェックを必須にする
- 使うAIサービスを事業所で統一する:各職員がバラバラのツールを私物端末で使わず、法人として承認したサービスに絞る
- 無料版と有料版(法人版)の違いを理解する:要配慮個人情報を扱うなら、データが学習に使われない設定の有料プランを選ぶ
- 困ったら止めて相談する:判断に迷う使い方は、勝手に進めず管理者・情報管理責任者に相談するルールにする
難しく考える必要はありません。A4一枚の「AI利用ルール」を作って全職員に配るだけで、十分なスタートになります。
使える補助金・加算制度
介護施設のAI・ICT導入には、活用できる公的な制度が複数あります。ここでは制度の存在と目的を紹介しますが、要件・対象経費・上限額は年度ごとに変わるため、必ず最新の公募要領・告示で確認してください。本記事は特定の割引額や実質負担額を保証するものではありません。
- 生産性向上推進体制加算:2024年度の介護報酬改定で新設された加算です。見守り機器、インカム等のICT機器、介護記録の作成効率化に資するICT機器(介護記録ソフトやスマートフォン等)のいずれか1つ以上の活用が要件の一つに含まれます。加算(Ⅰ)月100単位、加算(Ⅱ)月10単位(同時算定不可)。詳細な要件は公益財団法人介護労働安定センターの解説資料や厚労省の告示・通知で確認してください。
- デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金):2025年度補正予算事業から名称が変更された制度で、経済産業省が所管し中小企業基盤整備機構が実施しています。中小企業・小規模事業者のソフトウェア・ITツール導入を支援する制度で、介護記録ソフトやAIツールの導入も対象になり得ます。申請枠は複数用意されているため、公式サイトで自事業所が対象となるか確認してください。
- 地域医療介護総合確保基金(介護分):都道府県が実施主体となり、介護ロボット・ICT導入等を支援する枠が設けられています。実施内容・補助率は都道府県によって異なるため、所在地の自治体窓口への確認が確実です。
これらの制度はいずれも要件審査があり、申請すれば必ず採択・支給されるものではありません。「AIを入れれば加算や補助金がもらえる」と単純化せず、まずは自事業所が満たせる要件を確認するところから始めてください。
導入で見込める効果と、その測り方
「で、結局どれくらい時間が浮くの?」という疑問にお答えします。ただし、ここで安易な数字を示すのは誠実ではありません。効果は事業所の規模・業務内容・使い方によって大きく変わるからです。
正直にお伝えすると、生成AIの効果は「魔法のように全部が速くなる」ものではありません。記録の整形や連絡文の下書きのように定型的でAIが得意な業務は大きく時短できますが、利用者ごとの個別判断が必要な業務は、当然ながらそれほど変わりません。だからこそ、自事業所で測ることが大事です。
測り方はシンプルでいいです。「いちばん時間のかかる書類業務を1つ選び、AI導入前後で『1件あたり何分かかったか』を1か月だけ記録する」。これだけで、自事業所にとっての効果が数字で見えます。導入した施策(プロンプトのテンプレ化・音声入力との組み合わせ・職員間共有)と、測定期間・対象業務・測定方法をセットで記録しておけば、次の投資判断(記録ソフトの見直しや加算の検討)の根拠になります。他事業所の「〇%削減」という数字をそのまま自事業所に当てはめるのは危険です。その数字がどの業務を・どう測ったものか分からなければ、再現できる保証はありません。
介護施設の経営者・管理者がいま取るべき3つのアクション
- 「人はケアに、書類はAIに」を方針として打ち出す:人手不足で残業を減らさざるを得ないいま、書類仕事の効率化は「あったらいい」ではなく「やらないと回らない」課題です。管理者が「うちは書類仕事をAIで減らす」と明言することで、職員が安心して使えるようになります。
- 小さく始めて、事業所内に成功事例を1つ作る:専用システムの検討より先に、汎用AIで1業務を効率化した実例を作る。この順番を守るだけで、投資の失敗を大幅に減らせます。
- A4一枚のAI利用ルールを整備する:要配慮個人情報の扱い、最終確認は有資格者が行うこと、使うサービスの統一――この3点だけでも文書化しておけば、情報漏洩や誤記載のリスクは大きく下げられます。
よくある質問
介護施設でAIを導入するデメリットは何ですか?
最大のデメリットは、出力をそのまま鵜呑みにするリスクです。生成AIはもっともらしい誤り(ハルシネーション)を含むことがあり、記録やケアプランの内容確認を省略すると事故につながります。また、要配慮個人情報を無防備に入力すると情報漏洩のリスクがあるため、法人向けプランの利用や入力ルールの整備が前提になります。導入直後は職員のITリテラシーに差があり、一斉導入すると現場の反発を招きやすい点にも注意が必要です。
訪問介護でもAIは活用できますか?
活用できます。訪問介護では移動中や訪問先で記録をまとめる時間が取りにくいため、スマホの音声入力とAIの記録整形を組み合わせる使い方が特に相性が良いとされています。ただし訪問先で利用者情報を入力する場合は、通信環境やセキュリティ設定を事前に確認し、事業所として承認したツールに絞って利用することが重要です。
AI導入にはどのくらい費用がかかりますか?
ChatGPTやClaudeのような汎用生成AIは、個人向けの有料プランで月額3,000円前後から利用できます(2026年時点、料金は変更される場合があります)。専用の介護記録ソフトやAI搭載システムは、機能や事業所規模によって費用が大きく異なります。本記事で紹介した内製化の7ステップのように、まず汎用AIの無料版・個人向け有料版で効果を確かめてから、専用システムへの投資判断を行う進め方をおすすめします。
生成AIと見守りAI・介護ロボットは何が違いますか?
見守りAI・介護ロボットは、離床センサーや移乗支援機器などのハードウェアで、利用者の状態把握や身体的な介助を助ける技術です。一方、本記事で扱うChatGPTやClaudeのような生成AIは、記録・ケアプラン原案・連絡文などの「文章を書く・整理する」業務を助けるソフトウェアです。両者は目的も導入コストも異なるため、自事業所の課題が「身体的負担の軽減」なのか「書類仕事の負担軽減」なのかを整理してから検討することをおすすめします。
まとめ:今日から始める3つのアクション
- 今日やること:スマホかPCで無料のChatGPTかClaudeを開き、この記事の「即効テクニック1(申し送りメモの記録文への整形)」を1回試す。
- 今週中:自事業所で「いちばん時間がかかっている書類仕事」を1つ選び、対応するプロンプトを3回試して自事業所用に直す。
- 今月中:うまくいったプロンプトを職員間で共有してテンプレ化し、A4一枚の「AI利用ルール」を作る。
介護施設のAI活用は、高額な専用システムを買うことから始まるのではありません。今ある書類仕事のなかで「これ、AIにやらせたら楽になるかも」という1つを見つけることから始まります。人手不足のなかでも「人にしかできないケア」の時間を守るために、書類仕事はAIに。ぜひ今日、最初の1プロンプトを試してみてください。
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次回予告:次の記事では「訪問介護事業所の移動時間・記録業務をAIで効率化する」をテーマに、スマホだけでできる実践テクニックをお届けします。
参考・出典
- 一般職業紹介状況(令和7年3月分及び令和6年度分)について — 厚生労働省(参照日: 2026-08-18)
- 第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について — 厚生労働省(公表: 2024-07-12/参照日: 2026-08-18)
- 「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関する中間とりまとめ」の公表について(介護保険最新情報vol.1373) — 公益社団法人全国老人保健施設協会(公表: 2025-04-10/参照日: 2026-08-18)
- 生産性向上のための委員会と生産性向上推進体制加算 解説資料 — 公益財団法人介護労働安定センター(参照日: 2026-08-18)
- デジタル化・AI導入補助金2026の公募要領を公開しました — 中小企業庁(参照日: 2026-08-18)
著者:佐藤傑(さとう・すぐる)
株式会社Uravation代表取締役。X(@SuguruKun_ai)フォロワー約10万人。100社以上の企業向けAI研修・導入支援。著書『AIエージェント仕事術』(SBクリエイティブ)。SoftBank IT連載7回執筆(NewsPicks最大1,125ピックス)。
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