この記事の要点:
- 米連邦地裁が2026年7月20日、Anthropicの著作権集団訴訟「Bartz v. Anthropic」で15億ドル(対象書籍482,460冊)の和解を最終承認した。著者・出版社1件あたり平均約3,000ドルが支払われる、著作権訴訟としては史上最大級の和解金額。
- 争点は2つに分かれている。「AIモデルの学習に書籍を使うこと自体」は2025年6月の別判断ですでにフェアユースと認められ、その判断は維持されたまま。今回の和解が決着させたのは「海賊版サイトから書籍データを不正取得・保存していたこと」への責任。
- 日本の著作権法30条の4は情報解析目的の利用を比較的広く認めるが、海賊版データの扱いは別問題として整理する必要がある。学習利用の適法性と、データ取得元の適法性は分けて考えるのが実務上のポイント。
対象読者: 生成AIベンダーの選定や自社データ活用を検討している経営者・情報システム部門・法務担当者
読了後にできること: 自社が契約・利用しているAIベンダーに対して、学習データの出所について何を確認すべきか、押さえるべき4つの論点を整理できます
「AIの学習データって、そもそも合法に集めたものなんですか?」——最近、AI導入を検討する企業の経営者や法務担当者から、こうした質問を受ける機会が増えています。
2026年7月20日、米カリフォルニア北部地区連邦地裁のアラセリ・マルティネス=オルギン判事は、Anthropic社を相手取った著作権集団訴訟「Bartz v. Anthropic」について、15億ドル(対象書籍482,460冊)の和解を最終承認しました。著作権訴訟としては史上最大級の和解金額とされ、AI業界の著作権リスクをめぐる一つの大きな区切りとして報じられています。
この記事では、何が争われ、何が決着し、何がまだ決着していないのかをファクトベースで整理したうえで、日本の著作権法30条の4との違い、そして日本企業がAIベンダー選定・自社データ活用で確認すべきポイントを、100社以上のAI研修・コンサル経験を踏まえて解説します。
何が起きたのか — Bartz v. Anthropicの経緯
今回の和解に至るまでの流れを時系列で整理します。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年 | 小説家アンドレア・バーツ氏ら3名の著者が、AnthropicがClaudeの学習に著者の許諾なく書籍を利用したとして集団訴訟を提起 |
| 2025年6月 | ウィリアム・アルサップ判事(当時)が、適法に取得した書籍をAIモデルの学習に用いる行為自体は「フェアユース」にあたると判断。一方、Anthropicが海賊版サイト「Library Genesis(LibGen)」「Pirate Library Mirror」から700万冊超の書籍データを不正取得・保存していた点についてはフェアユースと認めず、Anthropic側の即時判決(サマリージャッジメント)請求を退けた |
| 2025年9月 | 15億ドル規模の和解について予備承認。Anthropicは和解基金へ3億ドルを早期拠出 |
| 2026年7月20日 | マルティネス=オルギン判事が和解を最終承認。対象となる482,460冊のうち約91%が著者・出版社によってすでに請求済み |
ここで重要なのは、争点が2つに分かれていたという点です。1つは「AIの学習にそもそも書籍を使ってよいか」という論点、もう1つは「その書籍データをどこから、どうやって手に入れたか」という論点です。今回の和解が決着させたのは後者、つまりデータの不正取得・保存に関する責任であり、前者の学習利用自体の適法性については、2025年6月の判断が維持されたまま今回の和解の対象にはなっていません。この切り分けは、後述する日本企業への示唆を考えるうえでも重要なポイントです。
なお、Anthropicが利用していた「Library Genesis(LibGen)」「Pirate Library Mirror(PiLiMi)」は、著作権者の許諾なく大量の電子書籍を無料公開してきた海賊版データベースとして知られています。裁判資料によれば、そこから保存された書籍は700万冊超とされていますが、今回の和解対象となった482,460冊はそのすべてではなく、著作権の帰属が確認でき、かつ著者・出版社側から請求(claim)が可能だった作品に限られています。「学習データに何が含まれていたか」の全容よりも「権利関係を証明できた範囲」で和解額が決まっている点も、実務上押さえておくべきポイントです。
AI導入を検討する企業にとって、こうしたベンダー側の法的リスクがどのように事業継続性やサービス品質に影響しうるかは、AI導入戦略の基本と合わせて押さえておきたいところです。
15億ドルの中身 — 支払い構造と対象者
和解金15億ドルは、以下のスケジュールで支払われます。
| タイミング | 支払額 |
|---|---|
| 予備承認直後(2025年9月) | 3億ドル |
| 最終承認から5日以内(2026年7月) | 3億ドル |
| 予備承認1周年(2026年9月頃) | 4.5億ドル |
| 予備承認2周年(2027年9月頃) | 4.5億ドル |
対象となる482,460冊の書籍について、著者・出版社1件あたりの支払額は平均で約3,000ドルとされています。原告側弁護士が申し立てていた成功報酬は当初1億8,750万ドル(和解金の12.5%)でしたが、マルティネス=オルギン判事はこれを約1億156万ドル(和解金の約6.8%)に減額し、その差額を原告クラス側の取り分に回すよう命じました。
一部の著者からは「1冊あたり約3,000ドルは安すぎる」との異議も出ていましたが、判事はこれを退け、「裁判に持ち込んだ場合のリスクとリターンを現実的に評価していない」と指摘しています。米国著作権法では、故意の著作権侵害と認定された場合、1作品あたり最大15万ドルの法定損害賠償が認められる可能性があり、単純計算(482,460冊×15万ドル)では理論上724億ドル規模に達する数字になります。今回の和解は、双方にとって裁判という不確実なリスクを回避する選択だったとも言えます。
なぜ「学習は合法、取得は違法」なのか — 争点の切り分け
今回のケースを正しく理解するうえで欠かせないのが、「AIモデルの学習利用そのもの」と「学習データの取得方法」は別の法律問題として審理されたという点です。
2025年6月のアルサップ判事の判断では、Anthropicが正規に購入・スキャンした書籍を学習に使う行為は、著作物の「表現」を消費者に再提供するものではなく、新しい能力を生み出すための変換的な利用(transformative use)にあたるとして、フェアユースが認められました。この判断自体は今回の和解によって覆っておらず、AI企業にとって一定の安心材料として引用され続けています。
一方で、Anthropicは学習データを揃える過程で、著作権者の許諾なく公開されている海賊版データベース「Library Genesis」「Pirate Library Mirror」から700万冊超の電子書籍データをダウンロード・保存していました。アルサップ判事はこの行為について、購入や許諾を経ていない以上フェアユースの範囲外であると判断し、この部分の責任を問う訴訟が今回の15億ドル和解につながりました。
つまり「AIの学習に本を使ってよいか」ではなく、「その本をどうやって手に入れたか」が今回の和解の核心です。この整理を誤って「AI学習はすべて違法認定された」と理解すると、日本企業がベンダーを評価する際の論点がずれてしまうため注意が必要です。
この和解への評価は分かれている
今回の和解は「史上最大の著作権回収」(原告側弁護士ジャスティン・ネルソン氏)と評価される一方、法律専門メディアからは「拘束力のある判例にはならない」という指摘も出ています。和解は当事者間の合意であり、裁判所が海賊版データ利用の是非について最終的な法的判断(判決)を下したわけではないためです。ニューヨーク・タイムズ対OpenAI、ゲッティイメージズ対Stability AIなど、係属中の他のAI著作権訴訟にそのまま適用される保証はありません。
楽観的に見る立場からは、AI企業が無断で著作物を利用した場合に巨額の責任を負う可能性が示された点で、著作権者側の交渉力が強まったと評価されています。慎重な立場からは、1冊あたり約3,000ドルという金額は、法定損害賠償の上限(1作品最大15万ドル)と比べれば低く、AI企業にとって「賠償金を払ってでも先に学習を進めた方が合理的」という計算を助長しかねないとの懸念も指摘されています。どちらの見方にも一理あり、今回の和解単体でAI業界の著作権リスクが解消したと捉えるのは早計です。
実際、Bartz和解の考え方はすでに他の訴訟にも波及しています。主なAI著作権関連訴訟の状況は以下の通りです。
| 訴訟 | 相手方 | 状況(2026年7月時点) |
|---|---|---|
| ニューヨーク・タイムズ 対 OpenAI・Microsoft | OpenAI・Microsoft | 提訴から2年超が経過し、最終結論は未了。2026年中の和解の可能性も報じられている |
| ゲッティイメージズ 対 Stability AI | Stability AI | 英国高等法院が2025年11月、二次的著作権侵害には当たらないと判断(ゲッティ側は審理中に主要な著作権侵害の主張を取り下げ) |
| Universal Music Publishing・Concord・ABKCO 対 Anthropic | Anthropic | 2026年1月、歌詞データの無断学習・海賊版利用を理由に約31億ドルの損害賠償を求めて提訴。Bartz和解の「海賊版取得」の法理を踏まえて訴状を修正したと報じられている |
| Andersen 対 Stability AI(視覚芸術家) | Stability AI | 2026年9月8日に陪審裁判が予定されており、AI生成物と著作物の「モデル=複製」理論について米国初の評決が出る見通し |
特に音楽出版社によるAnthropic提訴は、Bartz和解で認められた「海賊版データ取得は違法」というロジックを他分野に転用した動きとして注目されています。今回の和解が「拘束力のある判例」でなくても、他の権利者や訴訟戦略に実務上の影響を与えていることがわかります。
Anthropic自身はどう説明しているか
Anthropicの法務副顧問(deputy general counsel)を務めるアパルナ・スリダー(Aparna Sridhar)氏は、和解の最終承認を受けて次のようにコメントしています。
「私たちがこの和解に至ったのは2025年のことです。それは、書籍を使ってAIを学習させることは著作権法上のフェアユースにあたるという、裁判所の画期的な判断が下された後のことでした。この判断は今も変わらず有効な法律です」
この発言からも、Anthropicが今回の和解を「学習利用自体は適法」という前提を維持したうえでの決着と位置づけていることがわかります。裁判所の判断を覆す内容ではなく、データの取得経路に関する責任を金銭で解決したという整理は、AI企業側の一貫した立場と言えるでしょう。
日本の著作権法30条の4との違い — 学習利用のグレーゾーン
日本企業からよく聞かれるのが「日本ならこの問題は起きないのでは?」という質問です。ここは正確に整理しておく必要があります。
日本の著作権法30条の4は、著作物に表現された思想・感情を「享受」する目的でない利用、つまり情報解析(AI学習など)を目的とした利用については、必要と認められる限度で著作権者の許諾なく行えると定めています。この規定は世界的に見てもAI学習に比較的寛容な制度とされ、米国のフェアユースのように事件ごとの個別判断(4要素テスト)を経る必要がない分、予見可能性が高いという特徴があります。
比較の視点で見ると、EUのAI Act/DSM著作権指令では権利者がテキスト・データマイニング(TDM)からのオプトアウトを表明できる制度が採用されており、米国はケースバイケースのフェアユース判断に委ねられています。日本の30条の4はオプトアウトの仕組みを持たず、要件を満たせば原則利用可能という立て付けである点で、国際的にも独自性の強い制度です。この違いが「日本はAI開発に有利」としばしば紹介される理由ですが、前述の通りただし書きによる制約は残ります。国・地域ごとのAI規制の違いは、日本のAI推進法とEU AI Actの比較で詳しく整理しています。
ただし、30条の4には「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」を除くというただし書きが付いています。学習データの入手経路が明らかな海賊版サイトであった場合、その取得行為自体が別途、著作権侵害や不正アクセス禁止法などの問題になり得るほか、正規のライセンス市場を害する態様の利用として、このただし書きに該当すると評価される可能性も指摘されています。つまり「学習目的だから何でも許される」わけではなく、①学習利用そのものの適法性(30条の4の要件)と、②データをどこからどうやって取得したかという適法性は、分けて検討すべき別の論点です。
この整理はあくまで一般的な制度の説明であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。自社の具体的な利用形態が30条の4の適用範囲に入るかどうかは、弁護士への確認を強くおすすめします。海外規制への実務対応を具体的なチェックリストとして把握したい場合は、EU AI Act対応チェックリストもあわせて参考にしてください。
日本企業が確認すべき4つのポイント
今回の和解を踏まえ、AIベンダーを選定・利用する日本企業が実務でチェックすべき点を4つに整理します。
1. AIベンダーの学習データ調達方針を確認する
利用しているAIモデルの学習データが、ライセンス契約に基づくものか、公開データのopt-out制度に対応しているかを、ベンダーの利用規約や公開資料で確認しましょう。すべてのベンダーが詳細を開示しているわけではありませんが、少なくとも「データ取得方針についての問い合わせ窓口があるか」は選定基準の一つになります。学習データの由来やコンテンツの真正性を確認する視点は、AI生成コンテンツ証明ガイド(C2PA・SynthID)で扱っているデータ来歴の考え方とも関連します。
2. 契約上のIP補償(indemnification)条項を確認する
主要なAIベンダーの多くは、エンタープライズ向け契約で著作権侵害の申立てが発生した場合の補償(インデムニフィケーション)条項を用意しています。ただし補償の範囲(自社が生成したアウトプットのみか、学習データ由来の問題まで含むか)はベンダーごとに異なるため、契約書の該当条項を法務担当者と一緒に確認することをおすすめします。
3. 自社でAIを学習・ファインチューニングする場合はデータ取得元まで確認する
社内文書やWeb上のデータを使って自社独自にAIモデルを学習・ファインチューニングする場合、著作権法30条の4の「非享受目的」の要件を満たすことに加えて、学習に使うデータそのものの取得元が適法か(著作権者の許諾済みか、正規に購入・契約したデータか)を個別に確認する必要があります。判断に迷うケースは、社内で処理せず必ず弁護士に確認するプロセスを設けておくと安心です。
4. ベンダーの訴訟リスクを継続的にモニタリングする
今回の和解のように、AIベンダーを相手取った訴訟は今後も増える見通しです。契約更新のタイミングや年1回程度で、利用しているAIベンダーが新たな著作権訴訟の当事者になっていないか、判決・和解によってサービス仕様や利用規約が変更される予定がないかを確認する運用を組み込んでおくと、突発的なサービス変更への備えになります。
なお、こうした著作権論点は、AIをめぐる規制環境全体の一部でもあります。同時期にはEUがGoogleに検索データ開放を命じるニュースも報じられており、AIプラットフォームをめぐる規制強化の流れは著作権に限らず広がっています。定期的に規制ニュースをウォッチしておくことをおすすめします。
よくある質問
Q. Claudeなど対象のAIサービスを使い続けている日本企業も、今回の訴訟に巻き込まれますか?
今回の訴訟・和解の当事者は、書籍の著作権を持つ著者・出版社とAnthropicです。Claudeなどのサービスを契約・利用しているだけの企業(エンドユーザー)が、この訴訟の当事者になったり、直接的な法的責任を問われたりするものではありません。ただし、AIベンダーが今後の訴訟でサービス提供に制約を受ける可能性はゼロではなく、事業継続性の観点からベンダーの動向を注視する価値はあります。
Q. 日本の著作権法30条の4があれば、海賊版データを使ってAIを学習させても問題ないのでしょうか?
そうとは言えません。30条の4は「情報解析目的の利用」を認める規定であり、データの取得経路が適法であることまでを免責するものではないというのが実務上の一般的な理解です。特に明らかな海賊版サイトからのデータ取得は、著作権侵害や他の法令(不正アクセス禁止法など)の問題として、30条の4とは別に検討されるべき論点です。個別の判断は弁護士に確認してください。
Q. この和解によって、AIの学習利用自体が「違法」と確定したのですか?
いいえ。むしろ逆で、正規に取得した書籍をAIの学習に使うこと自体は、2025年6月の判断で「フェアユース」と認められており、その判断は今回の和解でも維持されています。今回15億ドルの支払い対象になったのは、学習データの取得方法(海賊版サイトからの不正取得・保存)についての責任です。
まとめ
Anthropicの15億ドル和解は、「AIの学習利用そのもの」ではなく「学習データの不正取得」に対する責任を問うたものであり、この切り分けを正しく理解することが実務上のポイントです。また、今回の和解は判決ではないため、他のAI著作権訴訟に対する拘束力のある判例にはなりません。日本企業にとっては、著作権法30条の4があるからといって学習データの取得経路まで無条件に免責されるわけではないという点を踏まえ、AIベンダーのデータ調達方針・契約上の補償条項・自社利用時のデータ取得元・ベンダーの訴訟リスクの継続監視という4点を確認しておくことが、今後の実務対応として重要になります。
参考・出典
- Judge approves a $1.5B Anthropic settlement over pirated books used to train the Claude chatbot — The Washington Post(参照日: 2026-07-22)
- Anthropic’s landmark $1.5B copyright settlement is approved — TechCrunch(参照日: 2026-07-22)
- Anthropic Copyright Settlement Gets Final Approval: $3,000 Per Book, No Binding Precedent — Tech Times(参照日: 2026-07-22)
- Anthropic settles with authors in first-of-its-kind AI copyright infringement lawsuit — NPR(参照日: 2026-07-22)
- Bartz v. Anthropic Settlement: What Authors Need to Know — The Authors Guild(参照日: 2026-07-22)
- Anthropic to pay authors $1.5 billion over pirated books used to train Claude in first major AI copyright settlement — Fortune(参照日: 2026-07-22)
- 17 U.S. Code § 504 – Remedies for infringement: Damages and profits — Cornell Law School LII(参照日: 2026-07-22)
- AI学習データと著作権:非享受目的の情報解析における法的境界線と企業防衛策 — PatentRevenue(参照日: 2026-07-22)
著者: 佐藤傑(さとう・すぐる)
株式会社Uravation代表取締役。X(@SuguruKun_ai)フォロワー約10万人。
100社以上の企業向けAI研修・導入支援。著書『AIエージェント仕事術』(SBクリエイティブ)。
SoftBank IT連載7回執筆(NewsPicks最大1,125ピックス)。
ご質問・ご相談はお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
Claude Code / Codex を“自社の業務”で使いこなすなら
週1回60分のマンツーマンで、御社の実務をその場で自動化。設計から定着まで、業務に合わせて伴走します。
- 30分・オンライン
- 売り込みでなく業務診断
- 完全マンツーマン
お問い合わせフォームから24時間以内にUravation担当者がご返信します。



