結論:AI推進法(正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」、令和7年法律第53号。内閣府は「AI法」と呼びます)は、2025年5月28日に成立、6月4日に公布・一部施行、9月1日に全面施行された日本で初めてのAIを主題にした法律です。条文に罰則も禁止規定もなく、企業(法律では「活用事業者」)に課されるのは第7条の「積極的な活用に努める」努力義務と「国と地方公共団体の施策に協力しなければならない」協力義務の2つだけです。ただし「何もしなくてよい法律」ではありません。この法律が動かす3つの仕組み、つまり内閣総理大臣が本部長を務める人工知能戦略本部、閣議決定で定める人工知能基本計画(第Ⅰ期は2025年12月23日、第Ⅱ期は2026年7月14日)、第13条に基づく「適正性確保に関する指針」(2025年12月19日、戦略本部決定)が、企業に求める取組を具体的に書いています。指針は活用事業者(海外事業者を含む)に、AIガバナンスの構築、透明性の確保、安全性の確保、事業継続計画、データ保有者への配慮の5つを求め、第Ⅱ期基本計画は「AI法を含めた制度等の能動的かつ不断の見直し」と「当面は毎年変更」を明記しています。この記事は2026年10月12日時点で確認した条文と内閣府・総務省・経済産業省・デジタル庁の一次資料だけを根拠に、法律の骨格、罰則なしの意味、企業が今やることを整理します。
- 要点1:法律は4章28条+附則。第1章 総則(目的・定義・基本理念・5つの主体の責務)、第2章 基本的施策(研究開発・人材・指針の整備・調査研究・国際協力)、第3章 人工知能基本計画、第4章 人工知能戦略本部。企業に直接関わる条文は第7条(責務)、第13条(指針)、第16条(調査・指導・助言)の3つ
- 要点2:「罰則なし」は「基準なし」ではない。指針が示す10の要素(人間中心・公平性・安全性・透明性・アカウンタビリティ・セキュリティ・プライバシー・公正競争・AIリテラシー・イノベーション)と4つの基本方針(リスクベース・ステークホルダー関与・一気通貫のガバナンス・アジャイル)が、企業の自主的な取組の物差しになる
- 要点3:2026年の動きは、AI事業者ガイドライン第1.2版(3月31日・AIエージェントとフィジカルAIを追加)、第Ⅱ期基本計画(7月14日・エージェント型AIとAXが中心・制度の見直しを明記)、令和9年度概算要求のAI関連予算の公表(9月18日)。企業は「法律→指針→ガイドライン」の3層で読むと迷わない
対象読者:「AI推進法で何か義務が増えるのか」と聞かれる法務・情シス・経営企画、生成AIを業務に入れる前に根拠を押さえたい経営者、AI製品やサービスを提供する事業者
読了後にできること:条文の該当箇所を示して「罰則なし・努力義務と協力義務」を説明でき、指針の5項目と基本計画の方向性を自社のAIガバナンスに落とし込み、2026年以降の見直しに備えられる
この記事は2026年4月に公開した解説を、2026年10月12日時点で確認した e-Gov 法令検索の条文、内閣府「AI戦略」ページの法律概要・参議院附帯決議・適正性確保に関する指針・人工知能基本計画(第Ⅰ期・第Ⅱ期)、総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」、デジタル庁の「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」だけを根拠に書き直したものです。旧版にあった法律事務所の解説記事の引用と、ガイドライン第1.1版(2025年3月)を前提にした記述は外しました。
AI推進法とは|正式名称・成立と施行・4章28条の骨格
内閣府の法律概要は、必要性を「イノベーションを促進しつつ、リスクに対応するため、既存の刑法や個別の業法等に加え、新たな法律が必要」と説明しています。条文の第1条は目的を、人工知能関連技術が「我が国の経済社会の発展の基盤となる技術」であることを踏まえ、施策の基本となる事項を定め、人工知能戦略本部を設置して、施策を「総合的かつ計画的に」推進し、「国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与する」ことと書いています。
| 項目 | 内容(条文・内閣府の法律概要) |
|---|---|
| 正式名称 | 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年法律第53号)。内閣府の呼び方は「AI法」 |
| 成立・施行 | 成立 2025年5月28日、公布と一部施行 6月4日、全面施行 9月1日。附則第1条は「公布の日から施行。ただし第3章(基本計画)と第4章(戦略本部)などは公布から3か月を超えない範囲で政令で定める日から施行」 |
| 定義(第2条) | 「人工知能関連技術」は、人間の認知・推論・判断に係る知的な能力を人工的な方法で代替する機能を実現するために必要な技術と、入力された情報をその技術で処理して結果を出力する情報処理システムに関する技術 |
| 基本理念(第3条) | 経済社会の発展の基盤であり「安全保障の観点からも重要な技術」として、研究開発を行う能力を保持し、産業の国際競争力を向上させる。透明性の確保など適正な研究開発と活用、国際協力での主導的役割 |
| 構成 | 第1章 総則(第1〜10条)、第2章 基本的施策(第11〜17条)、第3章 人工知能基本計画(第18条)、第4章 人工知能戦略本部(第19〜28条)、附則(施行期日と検討) |
| 附則第2条(検討) | 政府は国際的動向や社会経済情勢の変化を勘案しつつ施行の状況を検討し、必要があれば所要の措置を講ずる |
2025年5月27日の参議院内閣委員会の附帯決議は13項目で、「人間中心のAI社会原則」に基づき人間の尊厳を損なわないことを大前提とすること、基本計画や指針の策定ではリスクの最小化だけでなく便益を踏まえること、活用事業者への調査・指導・助言では営業秘密などの知的財産に配慮すること、などを政府に求めています。

企業に関わる条文|第7条「活用事業者の責務」と第13条・第16条
法律は5つの主体に責務を割り当てています(第4〜8条)。企業に当たるのは第7条の「活用事業者」です。条文を要約せずに引用します。
第七条 人工知能関連技術を活用した製品又はサービスの開発又は提供をしようとする者その他の人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者(以下「活用事業者」という。)は、基本理念にのっとり、自ら積極的な人工知能関連技術の活用により事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努めるとともに、第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない。
| 主体(条文) | 責務の中身 |
|---|---|
| 国(第4条) | 施策を総合的かつ計画的に策定・実施する。行政事務の効率化のため国の行政機関で積極的に活用する |
| 地方公共団体(第5条) | 国との適切な役割分担のもとで施策を策定・実施する |
| 研究開発機関(第6条) | 研究開発と人材育成に努め、国と地方公共団体の施策に協力する。大学については研究者の自主性に配慮する |
| 活用事業者(第7条) | 積極的な活用で効率化・高度化・新産業の創出に「努める」(努力義務)。国と地方公共団体の施策に「協力しなければならない」(協力義務) |
| 国民(第8条) | 理解と関心を深め、国と地方公共団体の施策に協力するよう努める |
企業に関わる残りの2条は、第13条と第16条です。第13条は「国は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正な実施を図るため、国際的な規範の趣旨に即した指針の整備その他の必要な施策を講ずる」と定め、後述の「適正性確保に関する指針」の根拠になりました。第16条は、国が研究開発と活用の動向の情報収集、「不正な目的又は不適切な方法による」研究開発や活用で国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析と対策の検討などを行い、その結果に基づいて「研究開発機関、活用事業者その他の者に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずる」と定めています。企業が国から直接受けうる働きかけは、この第16条の「指導・助言・情報提供」と、第7条の「協力」です。

「罰則なし」の正確な意味|条文に罰則も禁止規定もない
条文の全文を検索しても「罰」という字は一度も出てきません。「義務」という語もなく、企業に向けた表現は「努めるとともに」(努力義務)と「協力しなければならない」(協力義務)です。内閣府の法律概要も責務の欄に「事業者は国等の施策に協力しなければならない」とだけ書いています。つまり次の3点が正確な理解です。
- AI推進法に違反して罰せられることはない。刑法や個別の業法など既存の法律はそのまま適用される(法律概要が「既存の刑法や個別の業法等に加え」と書いているとおり)
- 「何もしなくてよい」とも書いていない。第7条は積極的な活用に努めることを求め、第16条は権利利益の侵害事案を国が分析して企業に指導・助言する仕組みを置いている
- 具体的な基準は法律の外にある。第13条の指針(2025年12月)、第18条の基本計画(第Ⅰ期・第Ⅱ期)、各府省庁のガイドライン(AI事業者ガイドライン第1.2版など)が、企業の取組の物差しになる
EUのAI法が高リスクAIに義務と制裁金を置く「規制型」であるのに対し、日本は推進法+指針+ガイドラインの「推進型」です。違いの詳細はEU AI法の施行と企業の義務の解説、2026年3月の各国の動きはAI規制の同時多発の整理にまとめています。
法律が動かす3つの仕組み|戦略本部・基本計画・指針
| 仕組み | 条文 | 中身 | 実際の動き(2026年10月12日時点) |
|---|---|---|---|
| 人工知能戦略本部 | 第19〜28条 | 内閣に設置。本部長は内閣総理大臣、副本部長は内閣官房長官と人工知能戦略担当大臣、本部員はそれ以外の全ての国務大臣。基本計画の案の作成と実施の推進、重要施策の企画立案と総合調整を担い、関係行政機関などに資料の提出や協力を求められる(第25条) | 2026年7月10日に第5回本部を開催。2025年12月19日に「適正性確保に関する指針」を本部決定 |
| 人工知能基本計画 | 第18条 | 政府が定める。基本的な方針、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策などを定め、戦略本部が作った案を内閣総理大臣が閣議決定に付し、公表する。変更も同じ手続き | 第Ⅰ期を2025年12月23日に、第Ⅱ期を2026年7月14日に閣議決定(6月19日に素案の意見募集)。第Ⅱ期は「当面は毎年変更」 |
| 適正性確保に関する指針 | 第13条 | 国が国際的な規範の趣旨に即して整備する。全ての主体の自主的かつ能動的な取組を促す | 2025年12月19日に戦略本部決定。内閣府は各府省庁のガイドライン17本の一覧も公表 |
基本計画と指針の違いは、基本計画が「国が何に投資し何を整備するか」の政策文書で、指針が「各主体がAIをどう扱うべきか」の行動の物差しである点です。企業が自社のルールを作るときに直接参照するのは指針と、その下のAI事業者ガイドラインです。
2026年までに動いたこと|法律の成立から第Ⅱ期基本計画まで
| 日付 | 出来事 | 根拠 |
|---|---|---|
| 2025年5月27日 | 参議院内閣委員会が附帯決議(13項目) | 内閣府 AI戦略ページ |
| 2025年5月28日 | 法律が成立 | 内閣府の法律概要 |
| 2025年6月4日 | 公布・一部施行(総則と基本的施策) | e-Gov 法令検索の施行履歴 |
| 2025年9月1日 | 全面施行(基本計画と戦略本部の章) | e-Gov 法令検索の施行履歴 |
| 2025年12月19日 | 「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」を戦略本部が決定 | 指針本文 |
| 2025年12月23日 | 第Ⅰ期「人工知能基本計画~『信頼できるAI』による『日本再起』~」を閣議決定 | 内閣府 基本計画ページ |
| 2026年3月31日 | 総務省・経済産業省が「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」を公表 | ガイドライン本文 |
| 2026年6月19日 | 第Ⅱ期基本計画の素案に対する意見募集 | 内閣府 AI戦略ページの更新履歴 |
| 2026年6月26日 | 第6回人工知能戦略専門調査会 | 同上 |
| 2026年7月10日 | 第5回人工知能戦略本部 | 同上 |
| 2026年7月14日 | 第Ⅱ期「人工知能基本計画~日本AX、より強く、より豊かに~」を閣議決定 | 基本計画本文 |
| 2026年9月18日 | 令和9年度予算の概算要求におけるAI関連予算を公表 | 内閣府 AI戦略ページの更新履歴 |

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適正性確保に関する指針(2025年12月19日)|企業に求める5つの取組
指針は「適正性についての一義的な定義や絶対的な水準を定めるものではなく」、各主体がAIの特性や用途、自身の立場を踏まえて「自主的に取組を進める」という考え方に立ちます。その上で、考慮すべき10の要素と4つの基本方針を示し、「研究開発機関及び活用事業者が特に取り組むべき事項」として次の5つを挙げています。対象の活用事業者には「海外事業者も含む」と脚注に明記されています。
| 取組(指針2の項目) | 指針が求めていること |
|---|---|
| (1) AIガバナンスによる俯瞰的な適正性の確保 | 設計・開発・提供・実装のライフサイクル全体で、リスクの特定・評価・対処をする組織的なプロセス(経営層の関与したモニタリングや評価の仕組み、情報の適切な開示、教育・研修の実施など)を含むAIガバナンスを構築・運用・継続改善する。既存のITシステムのガバナンスを活用してよく、ISO/IEC 42001(AIマネジメントシステム)などの国際規格に基づく体制も挙げられている |
| (2) ステークホルダーとの信頼関係の構築に向けた透明性の確保 | 学習データの出所と出力される生成物について、知的財産やプライバシーの保護を含め、合理的な範囲で説明可能性を確保する。AIを提供するときは、仕組み・限界、禁止事項、学習するデータの収集ポリシー、出力の信頼性に関する注意喚起などの情報を利用者に提供する |
| (3) 十分な安全性の確保 | AIを悪用したサイバー攻撃や詐欺などのリスクを特定・評価して対策する。ハルシネーション、偏見・差別の助長、偽・誤情報(ディープフェイクなど)につながる不適切な出力を抑え、AI生成物であることが判断できる技術(電子透かし、来歴管理、APIなど)の開発に努め、必要に応じて実装する |
| (4) 事業継続性確保による安全な環境の維持 | AIを用いたシステムの運用者やサービス提供者は、障害に備えて損害を最小限にとどめ早期復旧するための事業継続計画をあらかじめ策定する |
| (5) データの重要性を踏まえたステークホルダーへの配慮 | 知的財産などのデータ保有者とデータの適正な活用の在り方について継続的にコミュニケーションを図る。社会的影響力の大きいAIを開発・提供する事業者は、利益還元のエコシステムや安心して創作活動ができる環境の構築に努める |
10の要素は、人間中心、公平性、安全性、透明性、アカウンタビリティ、セキュリティ、プライバシー・個人情報、公正競争、AIリテラシー、イノベーションです。4つの基本方針は、リスクベースでのアプローチ、ステークホルダーの積極的な関与、一気通貫でのAIガバナンスの構築、アジャイルな対応(PDCAを回しながら柔軟・迅速に対応)です。人間中心の要素には「AIを活用する範囲や条件については、人間自らが最終的な判断を行うこと」が含まれます。指針は国際面でも「広島AIプロセス」を引き、フレンズグループに60の国・地域が参加していること(2025年12月時点)を記しています。

第Ⅱ期人工知能基本計画(2026年7月14日)|企業に関係する4つの方針
第Ⅱ期計画の副題は「日本AX、より強く、より豊かに」です。概要は冒頭で「急伸するエージェント型AIに適応し、計算資源や電力から、制度・政策まで日本のAI実装能力を抜本強化」「AIを前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直す『AIトランスフォーメーション』(AX)を推進」と掲げ、4つの基本的な方針を立てています。
| 方針 | 企業に関係する中身(概要から) |
|---|---|
| 1. AI利活用の加速的推進「AIを使う」 | エージェント型AIなどの積極適用、政府での率先導入(ガバメントAI「源内」の進化と普及)。中堅・中小企業のAI導入と、地域密着型の新事業の支援。医療・金融・教育・防災などでバーティカルAI・フィジカルAIを核に社会実装を促進。府省庁横断で法制度・ガイドライン・運用ルールを抜本的に見直す |
| 2. AI開発力の戦略的強化「AIを創る」 | 計算資源・データ・電力の確保、国内のAI開発力の強化、信頼できる基盤モデルの開発。日本の勝ち筋としてバーティカルAI、フィジカルAI(AIロボティクス、自動運転)、AI for Science。本文は、バーティカルAI・フィジカルAI(特にAIロボット)・半導体に係る官民投資額を2040年度までにそれぞれ23.1兆円、10.5兆円、68.0兆円と想定 |
| 3. AIガバナンスの主導「AIの信頼性を高める」 | 「AI法を含めた制度等の能動的かつ不断の見直し」、AI法第16条の調査研究の機動的な運用、戦略本部に知見を集約して制度や指針の点検・見直しを促す仕組み、AISI(AIセーフティ・インスティテュート)の評価能力の強化、AIサミットの早期日本開催 |
| 4. AI社会に向けた継続的変革「AIと協働する」 | 中小企業と地方を含むAXの推進、雇用への影響の調査研究、人とAIの責任関係や知財保護につながる透明性確保の検討、AI実装人材の育成と全ての国民のリテラシー向上 |
本文の「第2節 基本計画の変更」は、技術の発達と活用の拡大が極めて急速であることを踏まえ「必要に応じて本計画を見直し、変更を行うこととし、当面は毎年変更を行う」としています。第Ⅰ期計画(副題「『信頼できるAI』による『日本再起』」)が「世界で最もAIを開発・活用しやすい国へ」を掲げていたのに対し、第Ⅱ期はエージェント型AIと制度見直しが前面に出ました。経済産業省の体制変更を含む第Ⅱ期の企業向けの読み方はAI基本計画とは|経産省「AI産業戦略課」新設と企業の対応に詳しくまとめています。
AI事業者ガイドライン第1.2版(2026年3月31日)との関係|法律→指針→ガイドラインの3層
総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、「はじめに」で、AI推進法が2025年6月に公布、9月に全面施行されたことと、同年12月に第13条に基づく指針が策定されたことに触れたうえで、「我が国におけるAIガバナンスの統一的な指針」として、細かな行為義務を規定するルールベースの規制ではなく「非拘束的なソフトローによって目的達成に導くゴールベースの考え方」で作られたと説明しています。対象は「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」の3主体で、各主体に共通する「共通の指針」と主体ごとの事項を置き、Living Document として適宜更新する方針です。第1.2版では「近年ではAIエージェントやフィジカルAIの社会実装の試みも進んでいる」として、AIエージェント(特定の目標を達成するために環境を感知し自律的に行動するもの)とフィジカルAIの説明が加わりました。
| 層 | 文書 | 決め方 | 企業にとっての意味 |
|---|---|---|---|
| 法律 | AI推進法(2025年) | 国会 | 努力義務と協力義務。罰則なし。仕組み(本部・計画・指針)の根拠 |
| 指針 | 適正性確保に関する指針(2025年12月19日) | 戦略本部決定 | 10の要素・4つの基本方針・活用事業者の5つの取組。自社ルールの物差し |
| ガイドライン | AI事業者ガイドライン 第1.2版(2026年3月31日)ほか各府省庁のガイドライン | 所管省庁 | 開発者・提供者・利用者ごとの実務。契約、著作権、教育、医療などの個別分野は各府省庁の文書を参照 |
内閣府は「各府省庁等のガイドライン等の一覧」として、AI事業者ガイドラインのほか、AI・データの利用に関する契約ガイドライン、AIと著作権に関する考え方、教育段階ごとの生成AIガイドライン、医療データの利活用ガイドラインなど17本を要素ごとに整理した図を公表しています。自社が当たる分野の文書を特定するのに便利です。ガイドライン第1.2版の中小企業向けの読み方はAI推進法施行後の動向と中小企業への影響で扱っています。
政府に売る企業が見る文書|デジタル庁の生成AI調達ガイドライン
政府機関向けには、2025年5月27日にデジタル社会推進会議幹事会が決定した「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(デジタル社会推進標準ガイドライン DS-920)があります。位置付けは Normative、つまり政府情報システムの整備・管理のルールとして遵守する文書で、各府省庁におけるAI統括責任者(CAIO)の設置、先進的AI利活用アドバイザリーボードの開催と報告、高リスクな生成AI利活用の考え方、企画・調達・開発運用・利活用の各段階のリスク管理を定めています。政府や自治体にAIシステムを納める事業者は、この文書の要件を提案段階から読んでおく必要があります。
企業の対応|指針の5項目に沿った6ステップ
- 自社の立場を決める:AIを「開発する」「提供する」「利用する」のどれに当たるかを整理する。AI推進法上は全て「活用事業者」だが、ガイドラインの3主体の区分で求められる事項が変わる
- 経営層が関与するガバナンスを置く:指針(1)のとおり、ライフサイクル全体でリスクを特定・評価・対処する組織的なプロセスを作る。既存のITガバナンスや情報セキュリティの体制に乗せてよい。将来の審査や取引先の確認に備えるなら ISO/IEC 42001 を参照する
- 利用者に出す情報を決める:指針(2)のとおり、AIの仕組み・限界、禁止事項、データの収集ポリシー、出力の信頼性に関する注意喚起、問い合わせ窓口を用意する。学習データの開示を求められたときの対応方針も決めておく
- 安全性の対策を実装する:指針(3)のとおり、サイバー攻撃・詐欺への悪用、ハルシネーション、偽・誤情報のリスクを評価し、生成物であることが分かる技術(電子透かし、来歴管理)を必要に応じて入れる
- 事業継続計画を書く:指針(4)のとおり、AIを使ったシステムやサービスの障害時に損害を最小限にし早期復旧する手順を平常時に決める。外部のAIサービスが止まった場合の代替手段も含める
- リテラシーと記録を回す:指針が全ての主体に求めるリテラシー向上と、第Ⅱ期基本計画の「毎年変更」に合わせて、年1回はルールと教育内容を見直す。AIの責任の所在は経産省の民事責任の手引きの解説、生成AIの届出制度はプリンシプル・コードの解説を参照
社内のAI利用ルールと研修をまとめて整えたい場合は、AI導入戦略ガイドとChatGPTビジネス活用ガイドを入口に、生成AI研修で各社の環境に合わせて進めています。

よくある質問
AI推進法に罰則はありますか?
ありません。条文に「罰」の字は一度も出てこず、禁止規定もありません。企業に向けた表現は第7条の「努める」(努力義務)と「協力しなければならない」(協力義務)だけです。既存の刑法や個別の業法はそのまま適用されます。
企業に新しい義務は生じましたか?
第7条の努力義務と協力義務が生じました。具体的な取組の水準は法律ではなく、第13条に基づく「適正性確保に関する指針」(2025年12月19日)とAI事業者ガイドライン第1.2版(2026年3月31日)が示します。指針は活用事業者に、AIガバナンスの構築、透明性の確保、安全性の確保、事業継続計画、データ保有者への配慮の5つを求めています。
EUのAI法とは何が違いますか?
EUは高リスクAIに義務と制裁金を置く規制型で、日本は推進法に指針とガイドラインを重ねる推進型です。日本の指針は「適正性についての一義的な定義や絶対的な水準を定めるものではなく」各主体の自主的な取組を促す、と自ら書いています。
基本計画と指針とガイドラインはどう違いますか?
基本計画(第18条)は国の投資と施策の方針を閣議決定する政策文書、指針(第13条)は全ての主体の行動の物差しを戦略本部が決めた文書、AI事業者ガイドラインは総務省と経済産業省が開発者・提供者・利用者向けに実務を書いた文書です。企業の自社ルールは指針とガイドラインを参照して作ります。
中小企業にも関係しますか?
関係します。第7条の活用事業者に規模の限定はなく、第Ⅱ期基本計画は中堅・中小企業のAI導入と地方を含むAXの推進を方針に掲げています。指針は、取組の水準を「各主体の規模や立場、AIがもたらすリスクに応じて」適切に決めればよいとしています。
法律はいつ見直されますか?
附則第2条が、政府は施行の状況を検討し必要があれば所要の措置を講ずると定めています。第Ⅱ期基本計画は「AI法を含めた制度等の能動的かつ不断の見直し」を掲げ、計画自体を「当面は毎年変更」するとしています。2026年10月12日時点で法律本体の改正は確認できていません。
最終確認日: 2026年10月12日
まとめ:罰則なしの法律を、指針と基本計画で読む
- 法律:4章28条+附則。企業に関わるのは第7条(努力義務と協力義務)、第13条(指針)、第16条(調査・指導・助言)。罰則も禁止規定もない
- 仕組み:総理が本部長の戦略本部、閣議決定の基本計画(第Ⅰ期 2025年12月23日・第Ⅱ期 2026年7月14日・毎年変更)、戦略本部決定の指針(2025年12月19日)
- 企業の対応:指針の5項目(ガバナンス・透明性・安全性・事業継続計画・データ保有者への配慮)を自社の立場に合わせて実装し、ガイドライン第1.2版と毎年の計画変更を追う
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参考・出典
- e-Gov 法令検索「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和七年法律第五十三号)」laws.e-gov.go.jp(2026年10月12日確認・法令API v2 で条文全文を取得)
- 内閣府「AI戦略」www8.cao.go.jp/cstp/ai/「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」ページと法律概要ai_act.html・参議院附帯決議(2025年5月27日)PDF(2026年10月12日確認)
- 内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」(2025年12月19日 人工知能戦略本部決定)本文PDF・概要・各府省庁等のガイドライン等の一覧ai_guideline.html(2026年10月12日確認)
- 内閣府「人工知能基本計画」第Ⅱ期(2026年7月14日 閣議決定)本文PDF・概要PDF/第Ⅰ期 概要PDF/基本計画ページai_plan.html(2026年10月12日確認)
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日)PDF/AI事業者ガイドライン検討会meti.go.jp(2026年10月12日確認)
- デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(DS-920・2025年5月27日 デジタル社会推進会議幹事会決定)PDF(2026年10月12日確認)
著者: 佐藤傑(さとう・すぐる)
株式会社Uravation代表取締役。X(@SuguruKun_ai)フォロワー約10万人。100社以上の企業向けAI研修・導入支援。著書『AIエージェント仕事術』『Claude仕事術』(SBクリエイティブ・シリーズ累計約6万部)。SBクリエイティブ「ビジネス+IT」ほかで生成AI連載を執筆(NewsPicks最大1,125ピックス)。ご質問・ご相談はお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
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